万城目学さん トーク&サイン会レポート

少し小雨の降る秋の夕べ。新作『とっぴんぱらりの風太郎』を発表された万城目学さんのトークショーを、本の学校で行いました。
平日の夜だというのにたくさんのお客様にお越しいただき、プレミアムなナイトイベントになりました。
※以下、小説の内容に触れる箇所がございます。小説を未読の方はご注意下さい。

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まずは、本題への助走も兼ねて簡単な質問にいくつか答えていただきました。例えば子どもの頃の夢とか、一番しあわせな時間はいつですか?など。
幼稚園の卒業文集に、将来の夢は「海底を散歩すること」「宇宙飛行士」「王さんのようなホームラン王になること」と3つも書いたそうです。
作家というのは、就職をどうしようかなと考えた時に、作家になれたらいいなと憧れのようなものを初めて持たれたとのことで、子どもの頃からの夢ではなかったそうです。
でも、本を読むことは小さい頃からお好きだったらしく、ルパンやエラリー・クイーンや怪奇小説全集など読んでいらしたそうです。
小学生の時に読んで面白かったのが『トリフィド時代―食人植物の恐怖』(ジョン・ウィンダム)。
トリフィドという緑の草が人間を襲う話で、ムチのような茎で次々と人間の目を失明させるのを、「なんで誰一人ヘルメットとかで目を守らないんだろう」と不思議でしようがなかったとか。
また、中学生の頃、積んであるマットを飛び越え損ねて両手首を骨折してしまうという珍事件があり、その時山岡荘八さんの『徳川家康』を全巻読破したのがきっかけで、その後司馬遼太郎さんや吉川英治さんの時代小説を読むようになったそうです。

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万城目さんの楽しいお話で、あっという間に会場が和やかで温かい雰囲気に。
ここでこの日の本題、新作『とっぴんぱらりの風太郎』についてお話を伺います。
まずは、そもそも『週刊文春』での連載ということで書かれたこの作品ですが、連載の際の苦労話を教えていただきました。
本来は半分程度執筆してから連載がスタートできれば良かったのですが、実際には前作が終わっていなく、たった2回分のストックで連載が始まったそうです。
でも流石ですね。締め切りを1回も落としたことはなかったそうですよ!
当初の予定では1年間の連載だったそうですが、結局は2年間の連載に。
ご自身は謙遜で「デビュー当時から見込みが甘くて、250枚って言うと500枚。1年っていうと2年になるんですよね~」なんておっしゃってました。

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今回時代小説に挑んだ理由は、そもそもデビュー作の『鴨川ホルモー』のような大学生の“しょうもない”やりとりみたいなものをもう1度書きたいなぁと思ってらしたそうです。
でも、京都を舞台にそれを書くと『鴨川ホルモー』のようになってしまうので、それなら今も昔も地名がほとんど変わらない京都の特性を活かして時代をスライドさせて書いてみよう。
そして、激闘の戦国の世が終わって平和な時代になったことで仕事がなくなった忍者を主人公にすると、ちょうど大学生のふらふらした雰囲気になるんじゃないかなと思って、万城目流時代小説が生まれたそうです。

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当時の京都の町がどうだったか小説の中には詳しく書いてないけれど、実は非常に細かいところまで調べられたとか。
ご自身の中で何事もそれがどういったものか分かってないと心配で書けないということを何度もおっしゃってました。
当時の京都の区画を自転車で1周してみたり、ポルトガルの宣教師が残した資料であったり、丁度小説の時代と重なる戦国時代に描かれた「洛中洛外図屏風」を見たりしてその頃の文化をお調べになったそうです。

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今回も物語の中にひょうたんが出てきますが、ひょうたんを登場させたことで、風太郎が育てるひょうたんの成育スケジュールに合わせて物語の時期を動かさなければならなくて、また重要なポイントには風太郎がひょうたんのそばにいなければならず、かといってずっとひょうたんの世話ばかりさせていると、“お仕事小説”になってしまう!と、思わぬところで大変だったそうです。
万城目さんの創作ノートにはご自身が栽培された時のひょうたんの生育記録が綴られているそうで、それを今回は一旦太陰暦に直し、物語の展開に時期を合わせるのが執筆初期の最優先事項だったとか。
「やっぱり、ひょうたん好きなんですね?」と司会が尋ねると「いやいや、そんな好きじゃないです」と。
いえいえ、絶対お好きなはずです。(笑)

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タイトルの“とっぴんぱらり”の秘密についても答えてくださいました。
物語の最後に主人公の風太郎がどうなるかというのは、最初から決めてあったそうです。
そのことを自分自身に約束させたいという気持ちがあり、ぬるいラストシーンではなく風太郎が最後にどうなるかちゃんと描きたいという思いがあったそうです。
そのことを象徴するような言葉をタイトルに入れることによって、「自分が決めた結末から逃げない」とご自身で決められたそうです。
しかし、なかなかいい言葉が見つからず、一時は、その当時忍者のことを“スッパ”とか“ラッパ”などと言っていたことから、“ザ・ラストスッパマン”に決まりそうになったとか。
でも何か違うなぁ~と思っていた時に、ある本に挟まっていたしおりに、地方地方で昔話の終わりの言葉が違うという“うんちく”が書いてあるのを発見し、その中に秋田では「とっぴんぱらりのぷう」で締めるとあり、それを見た5秒後には「これだ!」と『とっぴんぱらりの風太郎』に決まったそうです。

その他、創作の順序や、風太郎とひさご様の関係性、『プリンセス・トヨトミ』のことなど沢山お話してくださり、万城目さんのウィットに飛んだお話振りに笑い声が絶えないイベントとなりました。

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トークショーの後にはサイン会もしていただきました。
本のサイズいっぱいにフリーハンドでひょうたんを迷いなく書かれる万城目さん。見事です。
ひとりづつ丁寧に、お話も交えてサインをしてくださいました。

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今回のイベントには、山陰両県はもちろんですが、遠くは四国や九州からお越しいただいたお客様もありました。
四国からお越しの方は「翌日は観光して帰ります」とおっしゃってました。山陰を楽しんでいただけましたでしょうか?
また、「今日は1日が長かったです。頑張って仕事を終えて、急いで来ました!」という地元のお客様も。
「万城目先生を呼んでくださってありがとうございます!」と逆にお礼を言ってくださる方もありました。
沢山の方にお越しいただいて、本当にありがとうございました!

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最後に、恒例の記念写真です。
万城目さんと一緒に、忍者のポーズ!

万城目学さん、今回は貴重なお話をありがとうございました!

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