島根県在住・吉田恭教さんインタビュー ~『化身の哭く森』発売記念~

島根県大田市に在住のミステリ作家・吉田恭教さん。
本格的なミステリ作品を描かれる方です。
7月14日に発売された『化身の哭く森』(講談社)他、これまで描かれた作品について色々とお話を伺いました。

-島根県に住むことになったきっかけは何ですか?
吉田恭教さん(以下、吉田)
「東京での仕事が忙し過ぎて体調を壊しIターン。漁師をするつもりで船を買いました。」

-ミステリ作家になろうと思ったのは?
吉田「日本海はとにかく時化が多くて海に出られない。時間があまるから小説でも書いてみようと思い立ち、島田荘司先生が好きだったのでミステリ小説を書くことにしました。
「ばらのまち福山ミステリ文学新人賞」は島田先生が選ばれるので応募しました。
その時応募した『変若水(をちみず)』が優秀作品に選ばれてミステリ作家としてデビューしました。
最初に書いた作品はSFで、「すばる新人文学賞」に応募して9位に残ったのですが、残念ながら受賞できませんでした。
『変若水』は2作目に描いた作品です。」

-2作目で優秀賞受賞は凄いですね!!
『変若水』はちょっと頼りない厚労省の役人・向井くんが、医療のミステリの謎を解くストーリーで、大変面白くて、いままで読んだことない医療トリックなどが使われて驚きました。
取材の方法やキャラクター設定などはどのように?

吉田「主人公の青年のモデルはありませんが、彼の上司にあたる、ちょっときつい感じの女性は前の会社によくいたタイプだったのでそれを参考にしました。
医療トリックは、自分の釣り船のお客様にお医者さんが多く、彼らから薬のこと、病気のこと、手術のことなど聞きました。この作品ではそれが活きています。
舞台は、邑智郡大和村ですが、いまは合併されたようです。戦前からの面影を残した場所です。」

-シリーズは『変若水』の医療系社会派ミステリと新刊『化身の哭く森』のオカルト的ミステリと二つあるようですが?
吉田「『変若水』の厚労省の役人・向井が登場するシリーズは他に『ネメシスの契約』『堕天使の秤』(いずれも光文社)があります。
『化身の哭く森』は、元刑事の探偵・槇野と警視庁捜査一課の女性刑事・東條の二人がオカルトっぽい事件を追うというストーリーで、『可視(み)える』、『亡者は囁く』(いずれも南雲堂)の2作品があり、『鬼を纏う魔女』(南雲堂)はこのシリーズのスピンオフです。」

-『可視(み)える』も大変面白かったです。探偵・槇野が調査する事件と、女性刑事が追う事件が別の視点から描かれ、やがて一つの事件に繋がってゆくという設定が他のミステリよりも面白さが2倍になったように感じました。それは意識的に?
吉田「ちょっと混乱すると言う読者もいますが、読み手を飽きさせない、いっきに読んでもらえるように工夫して描いています。」

-『可視(み)える』は、霊的な怖さと人間の心の闇の恐ろしさが描かれて、とても怖かったです。殺害方法も次第にエスカレートしてゆく。考えるのはつらくないですか?
吉田「殺害動機、殺害方法を考えるのが大変です。寝ても覚めてもどうやって殺そうか~って考えていますから(笑)。犯人の殺害する目的を考慮した殺人事件を描くようにしています。」

-この作品は島根県が登場しますね。ブログで作品を紹介する時、島根・松江・石見銀山など地元が舞台!をアピール出来てうれしかったです。
吉田「実は、事件の元になる神社は、石見銀山の近くに点在していて、昼間は明るいのでそれほど怖くないですが、夜は絶対に一人で歩きたくないですね。すごく不気味で怖いですよ。」

-探偵・槇野と女性刑事はどなたかモデルはいらっしゃるのでしょうか?
吉田「きっちりイメージしたわけではないですが、しいて言えば、槇野は俳優の松重豊さん、女性刑事は、トレーナーのAYAさんかな。」

-最新刊の『化身の哭く森』(講談社)は、主人公の大学生の祖父が、山で行方不明になり、祖父の痕跡を探しに、主人公が大学の仲間たちと「祟り」があると言われる「入らずの山」に入ったことで、仲間が次々と非業の死を遂げるというストーリーです。この話を思いついたきっかけは?
吉田「ある時、山に関するエピソードを耳にして、これは使えるな~と思ったんです。
そのエピソードとある伝説を組みあわせようと考えました。最近の若い人は、その伝説は知らないからどうかなと思ったのですが・・。
舞台を広島県三次市にしたのは、このあたりの山の雰囲気が作品にぴったりだと感じたからです。」

-昔話伝説と山に関するエピソードなんて、なかなか結びつかないです!!その意外性が面白いと思います。ところで、このシリーズは、ホラーの描写が少し入っているようですが・・・。
吉田「そうですね。『可視(み)える』と『化身の哭く森』は確かに描写があります。ただはっきりと「霊」を出すと完全にホラー小説になってしまいます。あくまで、ミステリ小説なので、オブラートに包んで描きました。」

-作品の世界観や、事件真相への過程など横溝作品を彷彿とさせますが、そのあたりは意識されているのでしょうか?
吉田「多少は意識します。クライマックスの真相は、伏線を回収するわけですから、誰かに真相を語らせます。謎を多くちりばめた時などはその説明が少し長くなる傾向にありますが、ミステリ小説はきちんと収束させなければいけないですから。」

-物語はトリックから考えるのですか?それともラストを決めてから組み立てられるのでしょうか?
吉田「作家さんによると思いますが、私はトリックを考えてから話を広げていきます。そうすると大まかなストーリーが出来上がります。」

-作品はいつ書いているのですか?
吉田「最近は忙しくて、1日中書いています。時々、釣り船の仕事も入りますが、今は執筆の方に集中しています。いつ作品の依頼がきても良いようにストックをしておくように心がけています。」

-作品のストックということで、次回作等ありますか?
吉田「今年は12月にもう1作出す予定です。探偵・槇野シリーズで、槇野が刑事を辞めるきっかけとなった事件に向き合い、過去を清算するというストーリーです。
保険金にからむ事件で、昔テレビで「ウイークエンダー」という三面記事を特集する番組があり、保険金にからむ事件を取り上げていたのを思い出し、そのネタを使ってみようと思ったんです。その次も決まっていて、警視庁捜査一課の女性刑事が、殺害された姉の事件に決着をつけるというストーリーです。」

今回は、吉田先生に創作の裏側を直接伺うことが出来、とても参考になりましたし、様々な工夫をされていることを知りました。
三面記事やニュースなど、気を付けて見聞きしていれば、トリックのヒントや物語の端緒に繋がってゆく・・。
そして意外な組合せでミステリ作品に仕立てる!とても興味深かったです。
そして次回作について、少しヒントを頂きました!!とても楽しみです。
お時間を頂き、本当にありがとうございました。

※文章・画像の無断転載・複製を禁止します。

島根県在住のミステリ作家が描く!横溝作品を彷彿とさせる、オカルトミステリ。
怪奇世界と本格ミステリの絶妙な融合!「可視(み)える」「亡者は囁く」に次ぐシリーズ第3弾。

7年前に広島の山奥で消息を絶った祖父の痕跡を探すため、「入らずの山」に登った大学生・春日優斗と友人たち。
下山後まもなく彼らは次々と非業の死を遂げる。
さらに祖父と繋がりのあった探偵も若くして亡くなっていた!
禁断の地に関わったものたちの死の連鎖・・・。
これは祟りか?それとも・・・?
東京と広島で起こる連続殺人事件に元刑事の探偵・槇野と〈鉄仮面〉と呼ばれる警視庁捜査一課の刑事・東條有紀が迫る!

■化身の哭く森
著者: 吉田恭教
出版社: 講談社
価格: ¥2,200(税込)
ISBN: 9784062206518
発売日: 2017年7月

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