松江・出雲も登場する!アクションエンターティメント「特殊防諜班」シリーズ

今野敏さんの「特殊防諜班」シリーズは、
松江・出雲が登場する、アクションエンターティメント作品。

「連続誘拐」「組織報復」「標的反撃」
「凶星降臨」「諜報潜入」「聖域炎上」
「最終特命」の7作品。

このシリーズは、紀元前10世頃、十支族に治められていたイスラエル王国が
アッシリアの侵攻によって崩壊。残された十支族は歴史から消えますが、
なんらかの伝手で、日本に渡来したのでは・・?という
「ユダヤ人渡来伝説」がバックボーンにあります。

そしてその十支族が持ち続けた「秘密」が日本の何者かに
伝承されたのではないか?
その「謎」と「秘密」をめぐり、秘密組織「新人類委員会」が
日本に闘いを仕掛けてきます。

それに立ち向かうのが、このシリーズのヒーロー・真田武男です。

主人公の真田は陸上自衛官。過酷な訓練で知られる
レンジャー部隊の実地訓練でたった一人で戦車部隊を
制圧してしまうほどの実力を持つエリートだった。

だが、孤高を貫く真田は軍ではやっかいもの扱いだった。
そんな真田に興味を抱いたのは、陸幕第二部別室・室長の
早乙女だった。
早乙女は、スパイ天国と言われる日本を他国からの間接的侵略や
テロの脅威から守るために、ある組織を立ち上げようとして
いた。それが、「特殊防諜班」だ。
早乙女は真田をスカウトし、二人だけの組織を立ち上げた。
そしてその組織は、日本の最高責任者と直結しており、
「首相の代理人」と異名をとる。

シリーズ第1弾では、宗教団体教祖の奇妙な誘拐事件を
探る真田。そこで雷光教団の東田夢妙斎と出会う。
東田夢妙斎を探るその過程で、真田はイスラエル大使館ザミルと
出会う。一方、雷光教団の教祖に危険を感じた、
出雲在住の謎の修験者・芳賀舎念は雷光教団に孫の恵理を
潜入させた!

真田・ザミル・恵理はこの事件をきっかけに運命的に
出会い、十支族の「秘密」を狙う、謎の集団との
死闘に巻き込まれていく!!

東京・出雲・松江を舞台に次々と襲い来る強敵。
しかし、真田とザミル、そして、芳賀舎念・孫の恵理は
闘いを経るごとに絆が深められてゆく!

勧善懲悪のシンプルでわかりやすいストーリーに
神秘的な歴史を織り交ぜ、読ませる作品。
さらに空手の師範である著者が描くアクションシーンは
まるで映画のようにかっこよく、息づかいまで聞こえてきそうな
臨場感!

シリーズ1作目を読むと、はまってしまう!
アクションエンターティメントの傑作。

「特殊防諜班」シリーズ全7巻
著者:今野敏
出版社:講談社(文庫)
価格:¥600~¥680(税別)

竜崎伸也意外な一面に気づく!隠蔽捜査シリーズ第7弾「棲月」

待ちに待った、「隠蔽捜査」シリーズの新刊が発売されました。
シリーズ第7弾「棲月」です。

今野先生の人気シリーズの新作が続々発売でファンは嬉しい悲鳴です。

「棲月」では、竜崎の身辺がざわつきはじめます。

その日、竜崎は息子から留学について話があると言われる。
息子の留学に気をとられながら通勤し、署内を見ると、
珍しく署員の数が少ないことに気づく。
警務課長に問うと、電車が止まっているという。
事故なのか?だがシステムがダウンしたとの事だった。
私鉄が原因不明のシステムトラブル?・・・。

竜崎は、念のため生安でサイバー事件に詳しい
署員を鉄道会社に向かわせた。
だが、弓削方面本部長からクレームが入る。
さらに、銀行でもシステムがダウンしたとの
連絡が入った!
2件連続のシステムダウン・・・。
これは偶然ではない。竜崎はサイバー事件だと直感した。

ところが今度は警視庁の生安部長から強烈な横槍が入った。
誰に対しても、原理原則を貫く竜崎は平然と横槍をかわす。
謎のシステムダウン事件は、警視庁サイバー犯罪対策課へ
引き継がれた。
そして、その夜公園で男性の遺体が発見された。

原因不明のシステムダウン、そして謎めいた殺人事件・・・。
殺害された少年の周りを探ってゆくと、奇妙な「都市伝説」に辿り着いた。

「棲月」はミステリーの色の強い警察小説となっていて、いつもよりも
謎解きが楽しめる。
さらに、竜崎の危険を察知する能力には目を瞠る。
縦割りの警察組織を原理原則でぶった斬るシーンは
何度読んでも気持ちが良い。
胸がすっとする。
仕事のストレスなどどこかへ飛んでいってしまう・・・。

しかし竜崎の身辺にも変化が訪れる・・・。
それを知った竜崎の心の変化に自分自身が驚くシーンがある。
やはり竜崎は面白い。
清らかな正義感に署員の誰もが心酔している。
そのシーンにうるっときてしまった。

次回「隠蔽捜査」シリーズの新たな局面が楽しみで仕方ない。

『棲月 隠蔽捜査7』
著者:今野敏
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)

安積班の原点!東京湾臨海署安積班シリーズ最新作「道標」

2018年最初に読んだ作品は、今野敏先生の
東京湾臨海署安積班シリーズ最新作です。
タイトルは「道標」。今回は短編集です。

若き安積剛志の姿が初々しく描かれています。

安積班シリーズはこの最新作で17作目になる。
この作品で初めて安積剛志刑事が、なぜ誰からも信頼を置かれる
刑事に成長したのかが描かれていて新鮮だ。

安積は、刑事になりたくて警察官になった。
明確な目標のもと刑事を目指す安積の教場時代、
交通機動隊隊長の速水と同期で、教場時代の二人の出会い、
柔道の試合でのエピソードが素晴らしい。

卒配で中央署地域課に配属になった安積は、俗にいう
お巡りさんとして地域を巡回し小さな揉め事を
処理してゆく過程で一人の青年と出会う。
その青年との触れ合いに安積の誠実さと優しさが
あふれている。刑事を切実に希望する安積に
上司が仕掛けた「罠」を見事にかわした安積の心意気が
かっこ良すぎる!

安積が刑事になって初めての大きな事件は、強盗犯の
潜伏先へのウチコミ(家宅捜索)だった。
安積は、先輩刑事・三国とコンビを組むことになるが、
三国は安積の異動について少し斜に構えていた。
その理由を安積に聞かれとまどった。
しかし、安積のまっすぐさと屈託ない態度に
三国は安積を見直すようになる・・・。

この3編は、安積が刑事時代、先輩や周りの人たちから教えられた
ことを吸収し、一人前の刑事に成長してゆく過程が描かれている。
しかし、それだけではなく、安積の清らかさは、
先輩刑事の心を動かし、周囲を変えてゆく力を持っている。

やがて班長として班をまとめてゆく安積だが、
常にこれで良いのかと問う。
仲間たちは、そんな安積とともに仕事ができる
ことを嬉しく思っている。

そして鑑識の石倉係長が、安積班から依頼された調査を
真っ先に行うその理由もこの短編集で明かしている。

まさに、心に熱い刑事魂を持つ安積刑事の出来るまでが
様々なエピソードで描かれ、ファンにはたまらない1冊。

新しい年の初めに気持ちが晴れ晴れする作品を読んだ!
今年は良いことがあるかも!

『東京湾臨海署安積班 道標』
著者:今野敏
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600(税別)

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ最新作「回帰」

今野敏先生の人気警察小説シリーズ
「警視庁強行犯係・樋口顕」シリーズの最新作
「回帰」を読みました。
このシリーズは、「隠蔽捜査」(新潮社)「東京湾臨海署・安積班」
(角川春樹事務所)「警視庁捜査一課・碓氷弘一」(中央公論新社)
シリーズと並ぶ、今野作品、警察小説シリーズベスト4の中の1作です。

どのシリーズにも癖のある刑事が登場します。
(一番のクセモノは「隠蔽捜査」の竜崎ですが・・・。)
このシリーズの主人公・樋口顕は「熱い情熱を秘めた静かなる男」
と言ったイメージで、はまさきは安積警部補の次に好きな人物です。

今回は、テロリストが絡んでくる爆破事件。
四谷にある大学の近くで、自動車の爆発事故が起こった!
警視庁強行犯係の樋口は早速現場へ急行した。
大学関係者2名が死亡、多くの怪我人が出た爆発事故は、
調査の結果、「爆弾」によるものだと判明する。

宗教テロが疑われる中、現場近くで中東系の若い男がいた
との目撃情報が出た。
その男は現場近くの大学の学生のようだった。
樋口たちはさらに情報収集に動き出すが、上司である
天童管理官から、かつての部下で今は国際テロ組織に
入ったと噂される、因幡から連絡が入ったと打ち明けられる。

このタイミングでそのような噂のある男と会うと言うのは
警察官として危険ではないのか・・・?
樋口は危惧したが、因幡は「テロを防ぎたい」と
言ったという。
この爆発事件の捜査本部には、公安部も参加している。
本部としては公安に出し抜かれる前にどんな情報でも
欲しいところだ。天童と樋口は二人で因幡に会うことにした。

そして、捜査本部では、目撃された中東系の学生の
取調が行われていた。

テロの脅威を前に日本の警察はどう動くのか?
テロを防げるのか?
目撃された中東系の学生を拘留し捜査官たちは先走る。
これ以上犠牲者を出したくない思いはわかる。
しかし証拠もはっきりとしない現状で、この学生が
テロの一員なのか・・・?断定して良いのか?
迷う刑事たちの前で、樋口は警察官として決断を下す。
その姿勢に胸が震えます・・・。

事件の様相は、目撃者の証言でさらに混迷を極める・・・。

練りに練られた事件の展開、捜査員たちの動き、
関係者の証言から次第に真実にたどり着く過程は
何度読んでも面白い!

『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』
著者:今野敏
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

萩尾警部補シリーズ待望の第2弾「真贋」!

シリーズ第1弾「確証」は、2013年に「確証~警視庁捜査3課」
というタイトルでドラマ化され、大ヒット!!

それからほんとに待ちました!!!
第2弾「真贋」も面白かったです!!!

警視庁捜査三課で窃盗事件を担当する、萩尾秀一警部補は、
盗犯捜査のベテランだ。そんな彼の相棒は女性刑事・武田秋穂だ。
まだ若いが、萩尾から盗犯捜査のイロハを吸収しようと必死だ。
今や、萩尾の‘頼れる’相棒となっている。

目黒区内で窃盗事件が発生したと無線が入った。
目黒署の管轄だが、萩尾は秋穂ともに現場へ向かった。
萩尾は窃盗の手口をみて、「獲物がある場所だけを狙う」
‘ダケ松’の仕業と見抜いた。

ダケ松は職質をかけられときとっさに逃げ出したらしい。
萩尾は、逮捕されたダケ松に話を聞きに行った。
ダケ松の態度を視て萩尾は、その供述に疑問を持つ。
どうやらダケ松には弟子がいるらしい・・・。
その疑念をそらすように、ダケ松は大物故買屋の名前を明かした。

同じ頃、渋谷のデパートで、陶磁器展が開催されるとの
連絡が入った。そこには国宝の「庸変天目」が一緒に
展示されるらしい・・・。
萩尾はダケ松の話から、大物故買屋がその陶磁器展に
絡んでくるのではないかと睨む・・・。

国宝が展示される陶磁器展に民間警備、萩尾達捜査3課。
さらに、警視庁捜査二課第2係(詐欺・背任・横領の捜査専門)の
捜査員・舎人刑事まで加わり陶磁器展の行方を見守るが、
そこで大事件が勃発する。

「国宝」の真贋に二転三転する捜査。
果たして真犯人は?そしてその手口とは?

盗みの職人VS盗犯捜査の職人!
職人同士のかけひきが見もの!
そして、秋穂の成長に目を見張る。
自信をつけた秋穂が、先輩の舎人刑事を
呼び捨てにするところはとても面白いです。

『真贋』
著者:今野敏
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

女子大生が未解決事件を捜査!?「継続捜査ゼミ」

次々と新作が発売になる、今野敏先生。
ファンとしては嬉しい限りです!!

しかも警察小説に限らず、警察小説ものに近い
変化球の作品がとにかく面白い!

最近読んだ中では「サーベル警視庁」が面白かったのですが、
今回の作品は、女子大生がゼミの勉強で携わった未解決事件の
真相を突き止める!今までにない設定のミステリー「継続捜査ゼミ」。
とても面白かったです。
登場したゼミの生徒たちがとても魅力的だったので、ファンとしては
ぜひぜひシリーズ化してほしい作品です。

元刑事で警察学校の校長職を最後に退官し、
女子大のゼミの講師になった、小早川。
そのゼミの名称は「刑事政策演習ゼミ」。

受講生は5人の女子大生。それぞれに個性的な女子たちだ。
小早川は、目黒署の組織犯罪対策課刑事総務課係の安斎刑事に
未解決事件の資料の依頼をしていた。
ゼミで勉強するにしても、やはり実際の資料から学びとるのが
一番だろうと考えていた。
そして、未解決事件の一つ、「老夫婦殺害事件」を取上げた。
当時の捜査資料を元に、それぞれが意見を交わす。
小早川は、様々な指摘をしながら講義を進めてゆくが、
やがて、彼女たちの指摘の鋭さに、彼女たちならこの未解決事件の
真相に辿りつけるかも知れない・・・と思い始めた。

当時の捜査官たちが気づかなかった点、見逃していた点、
疑問に思った点を洗い出してゆくと、新たな事件の様相が見えてきた・・・。
そして、ゼミの時間内に切がつかないと、大学近くのレストランで食事を
しながら話し出す。

そんな頃、運動部系の更衣室から、運動シューズの片方だけが
無くなるという事件が多発。
さらに、小早川と親しくなった、別のゼミの教授から身に覚えのない
写真が送られてきたと相談を持ちかけられた・・・。

学内で起こる身近な事件を、ゼミの女子大生たちと共に解決しつつ、
未解決の殺人事件も捜査してゆく。しかも大学の授業でだ。

今までの警察小説には無い、斬新な設定に興奮しつつ、
なぜ犯人はつかまらなかったのか?
何が原因だったのかをつきつめてゆく。
その過程がとても面白かった。

シリーズ化期待!!

『継続捜査ゼミ』
著者:今野敏
出版社:講談社
価格:¥1,600(税別)

警察の草創期の捜査を描く!「サーベル警視庁」

今野敏先生の最新刊は、明治時代の警察を描いた作品。
「サーベル警視庁」です。

時は明治38年、日露戦争まっただ中。
警視庁内でもその話で持ちきりだ。

そんな時、不忍池で変死体があがったと連絡が入った。
警視庁第一部第一課の面々たちは、早速不忍池に向かった。

警視庁第一部第一課は、鳥居部長、(幕末の怪物・鳥居耀蔵の縁者らしい・・)
を筆頭に、仙台出身の葦名警部、服部課長以下、岡崎上位巡査、柔術の猛者・久坂、
剣術の達人・岩井、私服刑事(でか)・荒井巡査という面々。

不忍池で発見された変死体は、帝国大学の教授らしい。
第一発見者は富山の薬売りだという。
岡崎たちは、その薬売りから事情を聞こうと、所轄の本郷警察署
に向かう。しかしはすでに放免された後だった。
そんなに簡単に放免しても良いのか?多少違和感を感じる岡崎たち。
殺害された、帝国大学講師は高島と言った。高島は急進派で日本古来の
文化を排斥し、諸外国にならうべきだと強く発言していた。
同じ日、陸軍大佐も高島と同じような手口で殺害されたとの知らせが入った!!

明治時代の警察署が現代の警察の基礎になりつつある感じだ。

維新の立役者は、薩摩・長州、その出身者が明治政治を牛耳っている。
そういう影響が色濃く残り、様々なところで取沙汰されている様子が
非常によくわかる。
警察内の権力バランスもやはりそうだ。
また、この時代では、維新とは言わず、瓦解と言う言葉を使って
江戸と明治の境目を語っていたようだ。
幕末から明治維新後の様子を市井の側から語れているのは
とても新鮮に映った。

興味深かったのは、伯爵の孫で探偵の西小路や、一般市民を
警察の協力者として捜査に加わっているところがとても
面白いと思った。

特に実在の人物を架空の人物に絡ませ捜査をすすめる
過程に感激した。
明治時代に活躍した人たちの名前が数多く登場する。
知っている人物の名前が捜査上であがってくると
思わずニヤけてしまった。

明治時代の警察小説ではあるけれど、とても新鮮に感じた。
今野節はここでも炸裂しています!!

『サーベル警視庁』
著者:今野敏
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600(税別)

渋い!!警察小説アンソロジー新作「所轄」

警察小説の短編のみを集めた「警察アンソロジー集」の新作が発売。
タイトルは「所轄」。

作品は薬丸岳氏「黄昏」、渡辺裕之氏「ストレンジャー」
柚月裕子氏「恨みを刻む」、呉勝浩氏「オレキバ」
今野敏氏「みぎわ」の5作品が収録されている。

所轄

所轄に勤務する警察官たちが、日々起こる事件にどう向き合っているのか?
警察小説作家さんたちの競作です。

「黄昏」薬丸岳
主人公は、「刑事のまなざし」の夏目刑事。
テレビドラマ化され、心優しい夏目刑事を椎名桔平さんが演じ
好評を得ました。
夏目刑事は、東池袋署から錦糸署へ異動の辞令があり、
東池袋署では最後の事件となりそうだ。
アパートの一室から女性の白骨死体が発見され、娘が死体遺棄容疑で逮捕された。
取調官は、死亡届を出さなかったのは年金の不正受給のためではないかと
疑ったがどうも違うらしい。夏目は、娘が何故死んだ母親と3年も
一緒にいたのか・・・?何か特別な思いがあったのではと思った。
娘の切ない思いに納得・・・。

「ストレンジャー 沖縄県警外国人対策課」渡辺裕之
警視庁から、沖縄県警に新設された「外国人対策課」へ移動してきた、
与座哲郎は沖縄県人であるにも関わらず、長く都会にいたため、
県人とのつきあいに苦慮していた。そんなとき、中国人夫婦の
殺人事件に遭遇。与座は得意な中国語を駆使し、事件解決に奔走するが・・・。
事件の行方と、県警VS警視庁公安部外事第二課との軋轢も読みごたえあり。

「恨みを刻む」柚月裕子
「検事の本懐」&「検事の死命」の検事・佐方貞人シリーズの短編。
佐方検事は、米崎西署で逮捕した覚せい剤所持事件の調書を読み疑問を持つ。
証言者は、逮捕された男の幼馴染の女性だが、
その女性が語った事件当日の行事に、佐方は疑問を持ったのだった。
佐方の小さな発見が、やがて大きな動きを生む。
しかしその動きは・・・・?
佐方の視点と、事件の真相を徹底的に暴こうとする姿勢が
凄いと思いつつ、その過程で警察の深い闇をちらり見せる展開が面白い!

「オレキバ」呉勝浩
大阪西成署管内で、ネットに投稿されたDJが病院に担ぎ込まれた事件。
「オレキバ動画」と称し、ネットで不気味な映像を流していた。
特に問題はないだろうとやり過ごしていた矢先、映像に写っていたDJが
全身ぼこぼこにされた。
鍋島刑事は、その事件の背後にいたらしい矢内という男を引っ張った。
だが、聴取してもうまくはぐらかす狡猾さで、事件の全容が見えてこない。
ある日、鍋島刑事と懇意にしている少女から重要な情報を得る・・。
大阪弁での会話がテンポ良く、妙に心地よい!

「みぎわ」今野敏
東京湾臨海署管内で強盗致傷事件が発生!早速、安積班が出動した。
被害者は強盗にあい腹部を刺されたようで、すでに救急搬送されていた。
通報者もすでに現場にはいなかった。須田が何か感づいたらしい。
安積警部補は須田の直感に期待した。須田は「被害者の連れ」を
気にしていた・・・。こんな状況で、安積は昔の事件を思い出していた・・。
安積警部補の若い頃が読める貴重な短編集。

どの作品も「滋味」のある作品ばかり。
警察小説ファンにはたまらない、アンソロジー集。

『警察アンソロジー 所轄』
著者:日本推理作家協会編
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥600(税別)

公安・倉島警部補シリーズ最新刊「防諜捜査」が面白い!!

今野敏先生の公安捜査官・倉島警部補シリーズの最新刊が出ました!!
「防諜捜査」です。シリーズ5作目。

第1作の「曙光の街」、第2作の「白夜街道」の中の倉島は
まだまだ頼りなく、公安捜査官の何たるか!を知らなかった。
だが、この「防諜捜査」では‘エース’となり、
「作業」を行うまでに成長している。
「エース」とは、秘密組織「ゼロ」の研修を受けた後に
「作業班」に所属し、独自に作業を遂行できる一握りの
公安マンに与えられる呼称(帯より引用)
いわゆる、公安マンのトップクラスだ。

防諜捜査

倉島は上司に呼ばれ、「作業班」への配属を任命された。
胸躍る倉島。
そんな折、ロシア人のホステスが列車に轢かれて亡くなるという事件が起きた。
早速、所轄が動き事故と自殺両面から捜査を開始した。
特に怪しい動きもなく、結局事故として処理された。
だが、中学教師が、その女性がロシア人の男性に突き落とされたのでは
と証言した。
倉島は、その中学教師から話を聞くと、ロシアにいた頃、「オレグ」と
名乗る男と知り合いになったが、その男が線路に人を突き落したのを見たという。
そして、そのオレグが、事件直前に秋葉原にいるのを目撃したと証言。
倉島はその証言を頼りに、情報提供者、出入国情報分析官の力をかり、
オレグを捜索するが・・・・。

倉島は、前作で一緒に仕事をした、片霧と伊藤、さらに、同じ係りの
ベテラン警部補・白崎とともに、作業を開始する。
彼らは様々な情報源をあたるが、オレグの影すら見えてこない・・・
まさか、俺の初めての「作業」は失敗に終わるのか・・・?

しかし、倉島は焦らない・・・。

倉島をライバル視する同僚や、公安機捜隊長との軋轢を克服しながら
事件の真相に近づいてゆく。

公安の「作業」は時に命の危機にさらされる。
しかし、倉島はどんな境遇にあっても、「楽しんだ者が勝つ」
という信念がある。

倉島の冷静さ、優秀さが際立った「防諜捜査」
また彼の成長した姿に会えてうれしい。

『防諜捜査』
著者:今野敏
出版社:文藝春秋
価格:¥1,600(税別)

隠蔽捜査シリーズ長編第6弾「去就」で竜崎が再びピンチ!?

待ちに待った、今野敏先生の大人気警察小説シリーズ
長編第6弾「去就 隠蔽捜査6」が発売されました。

キャラ的には、東京湾臨海署安積班の安積班長が好きな
はまさきですが、ストーリー的に一番好きなのが
「隠蔽捜査」シリーズです。
今回、竜崎はまたまたピンチに立たされます。

去就

警察庁の肝いりで各警察署にストーカー犯罪対策強化のため
ストーカー対策チームを立ち上げるよう指示が出た。
大森署でも、竜崎が真剣に検討していた。
そのせいで第二方面本部への連絡が遅れ、野間崎管理官から
督促されている。新たに第二方面本部長となった弓削の
差し金だと竜崎は感じていたが、全く機能しない対策チーム
など無意味だ。竜崎はきちんと成果を挙げられる対策チームを
作るつもりだと説明した。

そんな攻防を繰り広げている最中、
大森署管内で女性の連れ去り事件が発生した!
連れ去られた女性は、大森署にストーカー被害の
相談に来ていた女性だった。
その女性は、しつこくつきまとう男性に会って
決着をつけるため、同僚の男性と共にその男に会いにいき
行方がわからなくなったというのだ。
連れ去られた女性は寺川真智子、同行した男性は
中島繁晴、そしてしつこく良い寄ったのは、下松洋平。

その件を方面本部に報告に行った竜崎は、その後、中島繁晴が
殺害されたとの連絡を受ける。

ストーカー事件から殺人事件に一変!
さらに下松洋平は、父親の猟銃を持ち出し、立てこもっているという。
伊丹刑事部長は、すぐさまSITを現場に向かわせる。
さらに、弓削方面本部長が、銃器対策チームも必要ではないかと
しゃしゃり出る。
刑事部事案SITvs警備部事案銃器対策チーム。
ストーカー事件解決と警察内部の権力争いにはさまれた竜崎。
さらに、戸高刑事とストーカー対策チームに呼ばれた女刑事・根岸の
捜査で明らかになる、この事件全体に漂う妙な違和感・・・。

全ての判断を委ねられた竜崎は、一切の雑音をシャットアウト!
自らの信念を貫く。
それが自分に不利な方向へ傾いたとしても竜崎は決して揺るがない。

警察小説としては申し分ない展開!
さらにミステリー性を重視。
本作品も読みごたえたっぷりで大変面白かった!

『去就 隠蔽捜査6』
著者:今野敏
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)