列車脱線事故の真相を追う!堂場瞬一「暗転」

堂場さんは、警察小説(シリーズもの)が多いですが、
単発の作品で、グっとくる作品も結構あります。
その中で、「暗転」を読んでみました。

暗転

雑誌記者の辰巳は、朝しか取材できない作家との約束で、
いつもより早い時刻の列車に乗ることになった。
当然、通勤ラッシュの時間と重なる。
乗車した列車はぎゅうぎゅうで、鞄の中に入れていた
カレーパンも潰れてしまうほどだった。
しばらく乗っていると、列車がいつもよりスピード
を出して走行していることに気が付いた。
そして列車はどんどんスピードが上がる。体が後ろに引っ張られる!?
さらに、カーブに差し掛かった時、嫌な金属音が聞こえたと
思った瞬間、激しい爆発音のような音が聞こえ、辰巳は意識を失う・・・。

それは、列車が脱線し、80人以上が亡くなるという大惨事だった。
辰巳は何とか自力で列車の外に出たが、足に大怪我をしていた。
脱出するとき自分の下に居いた女性に頑張れと声をかけた。
だが、あまりのショックにしばらく呆然とし、次に気が付いた時は
病院だった。

病室のベッドでしばらく休んでいると、老警官が事情聴取に
やってきた。老警官は、辰巳を励ますが・・・。

そして、辰巳が声をかけた女性は、辰巳と同じ病院に運び
込まれたらしい。辰巳はどうしても彼女の病状が気になり
病室を除こうとするが・・・・・。

本書で描いてある列車が脱線した時の惨状は、福知山の
列車脱線事故を彷彿とさせる・・・。
事故のショックでなかなか現実と向き合えない雑誌記者。
事故の「とくだね」を迫る上司。
被害者の心に寄り添い、事情を聞く老警官。
婚約者を亡くした男性の絶望・・・。
それぞれの心理描画があまりにも見事で、読み進めていくと
胸がざわつく。あまりに絶望が深いと自分が何をしているのか
わからなくなる。そんな様子が臨場感たっぷりに描いてあり、
登場人物の心情とシンクロしてしまうのだ。

だが、その絶望を少しでも未来に繋げるためには何をするのか?
事故の真相究明だ・・・。

事故を起こした鉄道が発表した、事故原因。
それはあまりにも信じがたいものだった。
その鉄道会社の広報マンは、会社の発表に違和感を覚える。
老警官、雑誌記者、さらには家族からも、会社の発表に
納得できないと言われる。
次第に追いつめられる、広報マン。
そんな息子の姿を見て放った母親の一言が胸に響く。
「正しいことをしなさい。会社員であるまえに社会の一員でありなさい。」

事故の真相究明を追うミステリーであるけれど、もっとも大切なことを
教えてくれる1作だと思う。

『暗転』
著者:堂場瞬一
出版社:朝日新聞出版
価格¥680(税別)