アイスランド発‘超’傑作警察ミステリー第3弾『声』

前日に引き続き、アイスランドのレイキャヴィク警察の
ベテラン犯罪捜査官・エーレンデュルシリーズの紹介です。
シリーズ第3弾『声』。

シリーズ1作目、2作目と読んできて、著者が描きたいこと
それは「家族」についての物語ではないかと感じました。
そして、第3作目『声』もある家族に焦点を充てたミステリーです。

クリスマスシーズンでレイキャヴィクは、観光客でにぎわっていた。
そんな中、レイキャヴィクで一番のホテルの地下で、サンタクロースの
かっこうをした男が胸を刺された変死体で発見された。

エーレンデュルは同僚のエリンボルクとシグルデュル=オーリと
ともに捜査を開始した。

殺された男は、グドロイグルと言い、ホテルの地下に住み込み、ドアマンや
シーズンにはサンタクロースになるなど、小さな仕事をこなしていたらしい。
だが、従業員に聞いてもそれ以上の情報は得られなかった。
長年ホテルの地下に住んでいたのに、誰もグドロイグルのことを知らなかったのだ。
だが殺害現場に手がかりが残してあった。グドロイグルがヘンリーという男に
会う約束をしたメモだった。

ヘンリーはイギリス人で旧いレアなレコードの蒐集家だった。
エーレンデュルは、その男からグドロイグルの過去を聞き出すことが出来た。
グドロイグルは、子どものとき天使の歌声を持ち、レコードを2枚出していた。
子どもスターだったのだ。ヘンリーはそのレコードを探し、グドロイグルに
会うことになっていたのだ。

エーレンデュルは、華々しいグドロイグルの過去に驚愕する。
こどもスターだった男の転落人生はどこから始まったのか?
グドロイグルに関わりのあった人物たちに話を聞くことにした。

そんな事件捜査でエーレンデュルは、事件のあったホテルに
泊まり込んでいた。そこへ頻繁に娘のエヴァ=リンドが訪ねてくる。
一時は命の危機にあったが、エーレンデュルの必死の看病で
意識を取り戻したエヴァ=リンドは、しばらくエーレンデュルと共に過ごした。
その娘が、なぜアパートに帰らないのか?
自分と一緒にクリスマスを過ごそうと言う。
だが、エーレンデュルは事件解決を優先し、ホテルに留まることした。
それでまた娘の機嫌が悪くなってしまう・・・。
娘との関係修復にはまだまだ時間がかかるだろう・・・・。

また、同僚のエリンボルクは、息子を虐待していた父親の事件で
ずっと心を痛めていた・・・。

大筋は、グドロイグル殺害事件の真相を追うミステリーだが、
物語の根幹はやはり、「家族」の物語だ。
グドロイグルと家族の関係、エリンボルクが抱えた事件、
そしてエーレンデュルの娘に対する愛情。
さらに今回は、エーレンデュルの子ども時代の暗い過去も
描かれていてより奥深い物語となっている。

ただ単に事件解決だけを狙うミステリー小説ではなく、登場人物や
彼らの背景、またアイスランドの社会情勢なども丹念に描き切った、
素晴らしいミステリー作品。

『声』
著者:アーナルデュル・インドリダソン著/柳沢由実子訳
出版社:東京創元社
価格:¥1,900(税別)