渋い!!警察小説アンソロジー新作「所轄」

警察小説の短編のみを集めた「警察アンソロジー集」の新作が発売。
タイトルは「所轄」。

作品は薬丸岳氏「黄昏」、渡辺裕之氏「ストレンジャー」
柚月裕子氏「恨みを刻む」、呉勝浩氏「オレキバ」
今野敏氏「みぎわ」の5作品が収録されている。

所轄

所轄に勤務する警察官たちが、日々起こる事件にどう向き合っているのか?
警察小説作家さんたちの競作です。

「黄昏」薬丸岳
主人公は、「刑事のまなざし」の夏目刑事。
テレビドラマ化され、心優しい夏目刑事を椎名桔平さんが演じ
好評を得ました。
夏目刑事は、東池袋署から錦糸署へ異動の辞令があり、
東池袋署では最後の事件となりそうだ。
アパートの一室から女性の白骨死体が発見され、娘が死体遺棄容疑で逮捕された。
取調官は、死亡届を出さなかったのは年金の不正受給のためではないかと
疑ったがどうも違うらしい。夏目は、娘が何故死んだ母親と3年も
一緒にいたのか・・・?何か特別な思いがあったのではと思った。
娘の切ない思いに納得・・・。

「ストレンジャー 沖縄県警外国人対策課」渡辺裕之
警視庁から、沖縄県警に新設された「外国人対策課」へ移動してきた、
与座哲郎は沖縄県人であるにも関わらず、長く都会にいたため、
県人とのつきあいに苦慮していた。そんなとき、中国人夫婦の
殺人事件に遭遇。与座は得意な中国語を駆使し、事件解決に奔走するが・・・。
事件の行方と、県警VS警視庁公安部外事第二課との軋轢も読みごたえあり。

「恨みを刻む」柚月裕子
「検事の本懐」&「検事の死命」の検事・佐方貞人シリーズの短編。
佐方検事は、米崎西署で逮捕した覚せい剤所持事件の調書を読み疑問を持つ。
証言者は、逮捕された男の幼馴染の女性だが、
その女性が語った事件当日の行事に、佐方は疑問を持ったのだった。
佐方の小さな発見が、やがて大きな動きを生む。
しかしその動きは・・・・?
佐方の視点と、事件の真相を徹底的に暴こうとする姿勢が
凄いと思いつつ、その過程で警察の深い闇をちらり見せる展開が面白い!

「オレキバ」呉勝浩
大阪西成署管内で、ネットに投稿されたDJが病院に担ぎ込まれた事件。
「オレキバ動画」と称し、ネットで不気味な映像を流していた。
特に問題はないだろうとやり過ごしていた矢先、映像に写っていたDJが
全身ぼこぼこにされた。
鍋島刑事は、その事件の背後にいたらしい矢内という男を引っ張った。
だが、聴取してもうまくはぐらかす狡猾さで、事件の全容が見えてこない。
ある日、鍋島刑事と懇意にしている少女から重要な情報を得る・・。
大阪弁での会話がテンポ良く、妙に心地よい!

「みぎわ」今野敏
東京湾臨海署管内で強盗致傷事件が発生!早速、安積班が出動した。
被害者は強盗にあい腹部を刺されたようで、すでに救急搬送されていた。
通報者もすでに現場にはいなかった。須田が何か感づいたらしい。
安積警部補は須田の直感に期待した。須田は「被害者の連れ」を
気にしていた・・・。こんな状況で、安積は昔の事件を思い出していた・・。
安積警部補の若い頃が読める貴重な短編集。

どの作品も「滋味」のある作品ばかり。
警察小説ファンにはたまらない、アンソロジー集。

『警察アンソロジー 所轄』
著者:日本推理作家協会編
出版社:角川春樹事務所(文庫)
価格:¥600(税別)