恐すぎました・・・。「黒面の狐」

ホラーミステリの第一人者、三津田信三さんの
「黒面の狐」(文藝春秋)を読みました。

以前、三津田さんの「怪談のテープおこし」を
読んだ時はもろ怪談だったので、恐かったのですが
この「黒面の狐」は、もっと超自然的な恐ろしさを
感じてしまい、小説なのにとても怖いなと感じました。

戦後、朝鮮から引き揚げてきた一人の青年・物理波矢多(もとろいはやた)。
居場所はなく、なんとなくやってきた町でぶらりとしていると、
炭坑の手配師らしき男に声をかけられた。
少し強引なやり口だったが、今なら炭坑夫くらいしか
仕事口はないだろうと思い、ふらふらとその手配師についていった。
その矢先、別の男から声をかけられた。
波矢多は知的で優しそうなその男に、危うい炭坑に連行される
ところを助けられたのだ。
二人は何となく意気投合し、男が務める炭坑で共に働くことになった。

ただ、波矢多は朝鮮の大学を卒業しており、
それが炭坑の上層部にばれるとなにかと目をつけられるので、
黙って炭坑夫を続けた方が良いと言われた。

毎日、暗い穴のような所で汗だくになりながら炭を掘るのは
重労働だった。
しかも、炭坑にはタブーがあり、怪事件に遭遇した男もいた。
その中で特に興味深いのは、狐の面をかぶった美しい女の話だった。
いるはずもない炭坑のなかに出没する、狐の面の美女。
その女に魅入られると男はみんなおかしくなり、消えてしまう。

波矢多が仕事に慣れた頃、大参事が起こった。
ガス漏れが原因で炭坑内で爆発が起こったのだ!
波矢多は助かったが、親友は穴の中へ取り残されてしまった。
助けに行きたかったが、ガスが充満して2次災害が起こる
可能性があるため、会社の指示に従うことになった・・・。
そして、この事故からのち、不可思議な連続殺人事件が起こった。
さらに、事件の現場で目撃される、黒面の狐の姿・・・。
一体何が起こっているのか・・?
波矢多は事件を調べることに・・・。

炭坑内で起こる不思議な怪事件と、後半に起こった連続殺人事件。
2つの事件は繋がっているのか?
調査の過程で見つかったある朝鮮人青年の炭坑での記録!
それは目を覆いたくなるような、朝鮮人に対する日本人の
悪行が綴られていた。
朝鮮人たちの恐怖は、怪奇現象でも真っ暗な炭坑でもない。
日本人こそが恐怖だったのだ。

太平洋戦争中、強制的に日本に連れてこられ炭坑夫として働かされた
朝鮮人たちの無念が物語から浮かびあがってくる。
その叫びのようなものを、このような形で著者は描いた。

まさに背筋が凍るほどの衝撃!!!
覚悟して読んでください。

『黒面の狐』
著者:三津田信三
出版社:文藝春秋
価格:¥1,800(税別)