心に深く刻まれる・・・。警察ミステリーの極致「慈雨」

「臨床真理」でこのミス大賞を受賞後、上質なミステリーを描く
柚月裕子さん。
「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」の3部作は
法廷ミステリーの最高傑作。
そして昨年上梓された、「孤狼の血」は、強烈な個性を放つ
悪徳刑事の姿を哀切たっぷりに描き、警察小説に一石を投じ、
日本推理作家協会賞を受賞しました。
現在、波に乗っている著者の最新作は、「慈雨」です。

読み終わったら泣けてきました。

今作「慈雨」は、北関東で連続して起きている幼女誘拐
殺人事件をヒントに描かれたと思われる警察ミステリー。

退職し、妻と二人でお遍路の旅に出た元刑事・神場。
彼には、数々の事件の中でただ一つ忘れられない事件があった。
それは16年前に、管内で起きた幼女誘拐殺人事件・
金内純子ちゃん事件だ。
捜査本部は、遺体発見場所付近で目撃された白い軽ワゴン車
と類似する車を所有していた人物、八重樫を被疑者とした。

八重樫は地元に住んでおり、土地鑑があった。
両親は亡くなり、結婚もしていない。さらに、
純子ちゃんの死亡推定時刻にアリバイが無かった。
当時導入された新しい科学捜査、DNA型鑑定で純子ちゃんの体内に
遺された犯人と見られるDNA型と八重樫のDNA型が一致。
捜査本部は八重樫を純子ちゃん誘拐殺人容疑で逮捕した。
そして起訴され裁判にかけられたが、無罪を主張した。
しかし、DNA型鑑定が決めてとなり、懲役20年の判決を受けた。

当時、純子ちゃん事件の捜査を担当していた神場は、
ずっと違和感を感じたまま捜査をしていた。本当に
八重樫は犯人なのか・・・・と?

ところが、お遍路中に16年前の事件と同様の幼女誘拐殺人事件が起きた!
神場は、すぐさま、元相棒だった後輩に連絡をとった!!
心が揺れる!ざわつく!夢の中に出てくる純子ちゃんの悲しそうな顔・・・。
やはり・・・真犯人は他にいたのか・・・?
神場は、元相棒と元同僚に捜査のアドバイスを懇願される。
悩みつつ、それでもやはりこの事件に触れないでいることは出来ない。
神場は妻とお遍路の旅を続けながら、事件のことを思った。

16年前と現在の事件の解明を物語の本筋に置き、
退職した、元刑事が自身の過去を振り返る・・・。
妻との絆、同僚の死、娘への想い。
神場には誰にも言えない秘密があり、その秘密も
事件の解明とともに暴かれてゆく。
刑事としての矜持と正義感が16年前の事件の真実を暴く。
妻と娘を裏切っている自分を許せないからだ。
今度こそ間違いを犯してはいけない・・・。

正義感あふれる元刑事の贖罪と悔恨の旅。
刑事人生でただ一つの過ちを犯した自分自身と向き合い、
新たな一歩を踏み出す元刑事の姿に胸が熱くなる。

『慈雨』
著者:柚月裕子
出版社:集英社
価格:¥1,600(税別)