日本の刑事事件の過程をリアルに描いた骨太のミステリ作品「沈黙法廷」

先日、佐々木譲さんの法廷小説、「沈黙法廷」(新潮社)を
読みました。ハードカバー、500ページ超の長編大作です。

内容は、連続男性不審死事件を取り扱った骨太のミステリー作品。

東京で、一人暮らしの初老男性の絞殺死体が発見された。
捜査を開始すると、彼の周りから数名の女性の名前が挙がった。
その中で家事代行業をしている女性が、事件があったと思われる
日に被害者の家を訪ねていることがわかった。

その時は参考人という形で話を聞こうという程度だったが、
警視庁の刑事たちが張り込みをしている時に
埼玉県警の刑事とかち合った。
その女性は、埼玉で起きた男性不審死事件でも名前が挙がったと言うのだ。

2件の事件に名前が挙がったことで、埼玉・東京いずれも
彼女が黒星だと断定。しかし埼玉では証拠を集めきれず釈放。
その後すぐに警視庁が女性を逮捕した。
しかし女性は取調中ずっと無罪を主張し続けた。その態度に
一部の捜査員は本当に彼女がやったのかと疑問を持つが、
本部は女性一本に絞って容疑を固めてしまい、
やむなく状況証拠だけで立件した。

男性の変死体が発見された状況から、警察の捜査状況、
さらに、容疑を固め立件するまで、読んでいると
ドラマチックな展開は無く淡々として非常にリアルだ。

容疑者とされる女性の過去、埼玉で殺害された男性との
関係、さらの家事代行の仕事と称して、初老の男性を
訪ねた経緯、殺害に使われた凶器について、女性の
行動といちいち重なっている。
だが、一方女性はたった一つの家事代行の仕事を必死に
こなし、健気に生きているように見える。慎ましく
地味に、決して他人に迷惑をかけるようなことは
無いだろうと思わせる。
そんな彼女が強盗殺人など行えるだろうか・・・?
それとも周囲にそう思わせる演技が出来る稀代の悪女
なのだろうか・・・?
わからない、最後の最後までずっと疑い続けてしまう。
それが著者の狙いなのか・・・?

法廷での検事と弁護士のやりとりは圧倒的な臨場感があり、
まるで傍聴席にいるような錯覚を覚える。

一つの事件を徹底的にリアルに、丁寧に描くことにこだわった
この作品はフィクションでありながら、ノンフィクションでは
ないかと思わせる。
ただのミステリー作品ではなく、読者をグッと引き寄せ、最後まで読ませる
事件小説だと感じた。

『沈黙法廷』
著者:佐々木譲
出版社:新潮社
価格:¥2,100