本格医療ミステリーの傑作!「背律」

島根在住のミステリ作家・吉田恭教さんの人気
ミステリーシリーズ第4弾「背律」を読みました。

このシリーズは、厚労省のお荷物役人・向井俊介が、
医療事故などの調査の過程で、偶然にも事件に
遭遇し警察と協力して真実を暴くというシリーズ。

シリーズ既刊本は、第3回ばらのまち福山ミステリー文学
新人賞優秀作品賞を受賞した、「変若水(をちみず)」、
「ネメシスの契約」「堕天使の秤」がある。

向井が厚労省のお荷物と謂われる所以は、読みすすめてゆくと
なるほど!!と思わず手を打ちたくなるほどわかる。

大好きな父親をALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病で
失った、真田姉妹。父親は自分の死がどういう状態で訪れる
のか良くわかった上で、延命措置をとらず死なせてほしいと
懇願していた。ところが母親が延命措置をとってしまった・・・。

父の死後、その後を追うように母親も逝ってしまった。
その後真田姉妹は医療の道へと進んだ。
姉は旺林医大病院の神経内科の医師に。妹は看護師に。

そんな時、姉の婚約者・長谷部が何者かに殺害された。
事件当日、食事の約束をしていた真田姉妹が
マンションを訪ねると、長谷部は血だらけで
リヴィングに倒れていたのだ。
第一発見者となった、真田姉妹。二人は事件が
起こった時間、墓参りに買い物とアリバイは完璧だった。

そこで、事件の担当となった女性刑事らは、
事件当日長谷部医師を訪ねた人物を防犯
カメラから割り出すと、病院関係者が二人浮上した。
一人は、親友の脳神経外科医・坂本医師、もう一人は
肝臓外科医の安住医師だった。
病院で聞き込みを開始すると、長谷部と安住が
が激しい口論をしているところを何人かが目撃していた。

警察は安住に焦点を絞ろうとしていた。

一方、厚労省医療安全推進室の大内山碧は、
6か月の期限付きで、医療事故調査支援センターに
出向していた。彼女のサポートは、厚労省の
お荷物と云われている、向井俊介だった。
一番一緒に仕事をしたくないヤツ・・・・。
碧は心の中で毒づきながら、向井とともに医療事故の
内部告発があった、旺林医大病院の肝臓外科病棟で
医局長から話を聞いていた・・・。

長谷部医師殺害事件と、向井たちが調査する医療事故。
そこに浮上する一人の医師。

ALS、医療事故、殺人事件・・・これらが複雑にからみあい、
事件は混迷を極めてゆく・・・。
物語が進むにつれ、各所にちりばめられた謎のピースが
ひとつひとつあわさってゆく。それはやがて一つの事件
へと繋がり、読み手を鮮やかに裏切るのだ。
その手際が鮮烈過ぎる!

しかし、忘れてはならない、医療の切実なテーマも
しっかりと描かれた本格医療ミステリー。

『背律』
著者:吉田恭教
出版社:原書房
価格:¥1,800(税別)