短編ミステリーに新たな視点「血縁」。

今や、ミステリーの短編集で長岡さんの右に出る人は
いないでしょう!

長岡さん独特の目線で、様々なシチュエーションから描かれる
ミステリ作品は「教場0」に於いても、本作「血縁」に
於いても、誰も想像すらできないラスト。
まさに最後の一撃と言っていいくらいに脳天に響きます。

「血縁」は家族・身内という濃密な関係性の中で
起こる愛憎劇に焦点を充てた短編7作が収められています。

「文字盤」
寺島刑事は犯行現場を再現する「寺島流捜査」でこれまでに
幾多の事件を解決してきた。コンビニ強盗事件が発生し、
「寺島流捜査」で犯人の動きを再現したが、妙な違和感がぬぐえない。
防犯カメラの映像をチェックした時、犯人のある行動に気づく。
寺島は別件で、事故で寝たきりになった同僚の見舞いに行った。
彼は文字盤を頼りに他人とコミュニケーションを図っていたが・・・。
寺島が気づいた悲しい真実!

「苦いカクテル」
父親の介護に疲れた姉、父の苦しみを思うと楽にしてあげたいと
思う。そんな姉の元へ七年ぶりに弁護士の妹が訪ねてきた。そして
昔交わしたある約束を思いだす。父親を思う姉妹の気持ちは・・・?
法廷シーンは圧巻。

「オンブタイ」
事故で視力を失ってしまった、不動産会社の若社長。
何とかマンションで一人暮らしをしている。
そこへ、新しいヘルパーさんが訪ねてきた。
しかしそのヘルパーさんに不穏な動きを感じた主人公・・・。
ヘルパーさんの意図は・・・?
視覚以外で感じる恐怖!長岡さんには珍しい
人間の悪意に満ちたサスペンスフルな1作。

「血縁」
表題作。子どもの頃から姉の支配に置かれていた妹。
成人し、姉と同じ事務所でヘルパーとして働いていた。
ある日、妹はヘルパー派遣先の家で事故に遭遇する!
複雑な姉妹関係が描かれている。妹に対する姉の支配的
態度に「何故・・」と思わずにはいられない。

「ラストストロー」
死刑執行のボタンを押したことで、重荷を抱えて生きる
ことになった3人の元刑務官が、毎月行きつけの飲み屋で
抱えた重荷を一時3人で分け合う会をやっていた。
しかし100回目を迎えた時、3人それぞれの事情が複雑に
からみあう。死刑執行者の心理的負担を軽くする、複数人で
同時にボタンを押す・・・。という例えが効いている1作。

「32-2」
記憶喪失になった女性に、主人公の女性がその日に
あった出来事を辿ってゆく・・・。
資産家の母の家に姉夫婦と同居している、主人公。
姉の夫に訳もなく振り回される1日を回想してゆく。
そして姉の夫の真意に気づいた時、主人公は!?
こちらも長岡さんにしては異色の展開が面白い。
非常に緊迫した場面と姉の夫の不可解な行動が
ユーモラス。

「黄色い風船」
刑務官の男性は、犬の散歩中ちょっとした異変に
気づく。犬の特性を最大限に活かした、心温まる
ハートフルなミステリー。

長岡さんはインタビューで、とにかく「アイディア」
重視と語っています。アイディアをいかに効果的に
見せるか?様々なアイディアを一つの作品に織り交ぜ
ながらミステリーへと変化させてゆく。その手法に
驚嘆します。

様々なアイディアを効果的に使った、ミステリーの
数々が堪能出来ます。

『血縁』
著者:長岡弘樹
出版社:集英社
価格:¥1,500(税別)