社会福祉システムに警鐘を鳴らす「護られなかった者たちへ」

中山七里さんの新刊「護られなかった者たちへ」を
読みました。

最近のニュースで「生活保護費」増加や生活保護不正受給
についての報道が多く考えさせられます。
生活保護は本当に必要な人に届いているのか?

「護られなかった者たちへ」はそういう疑問に焦点を
あてたミステリーです。

東日本大震災後、復興が進む仙台市。その福祉事務所で働く男性が、
手足や口の自由を奪われた状態の餓死遺体で発見された。
周辺では人格者だと言われ、怨恨の線も薄い。金品目的の
強盗でもない。一体なぜ「餓死」させられたのか?
二人の刑事は「餓死」という最も苦しく凄惨な殺され方
ならばやはり「怨恨」ではないかと疑う。

福祉事務所職員が殺される事件から遡ること数日。
一人の男が出所した。男は8年前に起きたある出来事の
関係者を追っていた・・・。

捜査が難航する中、さらに市議会議員が同じ「餓死」状態で
発見されたのだ・・・。
やがて殺された男性二人の共通点が見つかる。

刑事たちの緻密な捜査はやがて「生活保護」に絡む
悲劇を暴いていく。

増加する生活保護費は誰にどう渡されるのか?
年老いた人たちが受給出来ず、やがて孤独死してゆく
実態と、福祉事務所職員と不正受給者との闘いが
圧倒的臨場感で描かれている。

どんでん返しの帝王と言われる著者の
超絶技巧もこの作品の読みどころ。

このままでは破綻しかねない日本の社会福祉システムに
鋭いメスを入れ、さらに本格ミステリーと融合
させた、社会派ミステリー、傑作中の傑作。

『護られなかった者たちへ』
著者:中山七里
出版社:NHK出版
価格:¥1,600(税別)