濃密な人間ドラマが織りなす哀切のミステリー『罪と祈り』

貫井徳郎さんの新境地です。
こんなに心に沁みるミステリーを読んだのは
久々です。

濱仲亮輔は、警察から父の死を知らされた。
父・濱仲辰司は、墨田川で亡くなっていたらしい。
父の突然の死に亮輔は言葉を失う。

辰司は元警察官だった。当初は事故かと思われたが、
側頭部に殴られた痕が見つかった。

真面目で正義感溢れる辰司が、なぜ殺されたのか?
父の殺害に疑問を持った亮輔は、一人調べ始める。

一方、亮輔の幼馴染みで刑事の賢剛は、警察官として
尊敬していた辰司の死の謎を追う。
賢剛が幼い頃、父・智士が自殺した。
その後、智士の親友だった辰司は、賢剛を
我が子のように可愛がってくれた。

賢剛は自身の父・智士の自殺とのつながりを疑う。

父親たちの時代はバブル全盛期の時代だった。
そして、当時世間を揺るがした未解決誘拐事件。

亮輔と賢剛、辰司と智士、現在と過去が
交互に描かれ事件の真相に迫ってゆく。

濃密な人間ドラマをバックボーンに、
現在と過去、二つの事件の過程が描かれる。
その謎解きの面白さもさることながら、
バブルに翻弄された人間たちの葛藤が
圧倒的な臨場感をもって描かれ心に響く。

著者、2年ぶりの最新長編は、これまでにない
傑作ミステリー。

『罪と祈り』
著者:貫井徳郎
出版社:実業之日本社
価格:¥1,700(税別)