「検事・佐方貞人」シリーズや「孤狼の血」、
「盤上の向日葵」「慈雨」など、読後
いつまでも余韻が残る作品を描く、柚月さん。
文庫新刊「あしたの君へ」を読みました。
家庭裁判所調査官補、望月大地が、事件を
通して成長してゆく姿を描く。
九州の福森家裁に配属された、望月大地。
研修期間中、大地は数々の事件の調査を
担当する。
女子高生の窃盗事件から、その少女に
架された悲劇を知る。
男子高校生が、同級生の女子生徒に
ストーカー行為を行ったとして逮捕されたが….。
小学生の息子の親権争いで揉める夫婦。
そこには意外な事実が….。
面接をしても心を開いてくれない相談者
たちを相手に、苦悩し続ける日々。
先輩たちの人に寄り添う言葉に大地も次第に
前を向く。
彼らの事件を丹念に調査してゆくことで、調書や
面接だけでは把握出来なかった、隠された真実が
浮かび上がる…。
「人に迷惑をかけることと、助けを求める
ことは違う。人に助けを求めることは悪い事
じゃない。むしろ生きていく上で必要な事だ」
がつんと頭に響いたひと言だ。
人は誰でも複雑な思いを抱えて生きている。
もしそれが、事件という形で表に出てしまったならば
それは、「助けて」のサインではないだろうか?
読んでいてふとそう思った。
日頃、忘れがちな、人として大切なことを
思い出させてくれるそんな作品だ。
『あしたの君へ』
著者:柚月裕子
出版社:文藝春秋
価格:¥640(税別)