犯罪ミステリーの最高峰!『罪の轍』

今年話題の犯罪小説「罪の轍」を読みました。
昭和38年に起きた、「吉展ちゃん誘拐殺人事件」
をモデルに描かれた犯罪小説です。

昭和38年。アジアで初めて開催される
東京オリンピックの前年、東京は熱狂に
包まれていた。

二十歳の青年・宇野寛治は、北海道で
漁師の仕事を手伝いつつ貧しさと孤独、
そして蔑みの日々を生きていた。

ある日、寛治は漁師仲間の男に弱みを
握られたあげく、その男の奸計にはまり
海難事故にあってしまう。

数か月後、東京都荒川区で元時計商の
老人が自宅で殺害された。
警視庁捜査一課の落合刑事は、捜査の過程で
子供たちから北国訛りの青年の情報を得る。
やがて捜査線上に行方不明と思われていた
宇野寛治の存在が浮かび上がる。

その矢先、浅草署管内で小学1年生の
児童が誘拐される事件が起こる!
犯人の要求は身代金50万円。

警察は必死で児童と犯人を捜索するが
杳として行方が知れない。
警察の捜査を嘲笑うかのように逃亡を
続ける不気味な犯人の正体とは?

警察の度重なる捜査ミス、早期解決を望む
世間からの重圧、限られた時間の中で刑事
たちは極限まで追い詰められてゆく。
それでも警察一丸となって、
絶対に犯人をとらえ、
児童を親元に還すという強い思いが
ひしひしと伝わってくる。

そして刑事たちの執念の捜査で事件の
全貌が明らかになったとき、
言葉を失うほどの衝撃を受ける。
何が人間を犯罪者へと変貌させるのか?
なぜこんな悲劇が起こったのか?
描かれた真相の重さに胸が締め付けられる。

敗戦後すさまじい勢いで発展を遂げる日本。
しかし、貧富の差はやはり激しい。
オリンピックのために集められた労働力。
山谷と呼ばれる労働者の宿泊施設の実態や、
活動家と警察の攻防も臨場感たっぷりに
描かれる。

また、当時の警察組織についても詳しく描かれている。
未熟な誘拐事件捜査のため、ミスを重ねる警察。
逆探知などまだ導入されておらず、犯人の
声を録音しテレビで放送するという手段で
捜査を行っていた。

世間から置き去りにされた
一人の青年の孤独な魂の彷徨を、
緻密な心理描写と緊迫感あふれる圧倒的リアリティーで
描き切った、犯罪ミステリ。
その熱量のすさまじさが、行間からにじみ出ている!

『罪の轍』
著者:奥田英朗
出版社:新潮社
価格:¥1,800(税別)