過酷な運命を背負う刑事を描く!『ブラッド・ロンダリング』

吉川英梨さんといえば人気の警察小説
シリーズが何作もあります。
「警視庁53教場」、「新東京水上警察」
「警部補・原麻希」「十三階の女」。
どのシリーズも面白くてはまります。
シリーズ1作目を読んでしまうと、
次から次へと読みたくなるのです。

また、シリーズでない作品は、社会的
メッセージが強いかなと感じます。
「雨に消えた向日葵」は少女誘拐事件を
通して、日本社会の病理に斬り込み、
心が揺さぶられました。

そして、最新作『ブラッド・ロンダリング』は、
過酷な運命を背負わされた人たちの悲痛な叫びが、
胸に響きます。

警視庁刑事部捜査一課に新人刑事が配属された。
彼の名前は、真弓倫太郎。父親も祖父も警察官。
しかし、彼には絶対に知られてはならない秘密があった。

その日、マンションの駐車場の車に真っ逆さまに
突き刺さった死体が発見された。
男の身元はすぐに判明。雑誌記者で、遺書が
遺されており自殺と断定される。
しかし、遺体の靴に残っていた塗料が気になった
警視庁刑事部捜査一課の二階堂汐里は
事件性があると感じた。

汐里は、なかなか心を開かない倫太郎を気遣う。
そして、グイグイと捜査に引っ張り込む。

記者の周囲を探っている内に、ある人気女優の
スキャンダルを追っていたことが判明する。
そして、女優が所属する芸能事務所では最近に
なってその女優のマネージャーが辞めたことが
わかった。
だが、そのマネージャーも自殺死体で発見される!

事件性ありと見た汐里たちは、本格的に捜査を
開始。やがて一つの集落を消滅させた凄惨な
大火事にたどり着く。

都会で起きた二つの変死事件、
かたや、奈良の限界集落で起きた自殺事件。
そして過去に起きた凄惨な火災事件。
三つの事件が繋がった時、あまりにも哀しい
真実が浮かび上がる・・・。

捜査の過程で発覚した、大火災事件。
加害者家族が背負ったあまりにも過酷な運命。
どこに行こうと必ず暴かれる。逃げ場はない。

また、不可解な行動を続ける新人刑事・真弓倫太郎。
一体彼はどんな秘密を抱えているのか?
倫太郎が語った「僕は刑事になってはいけない」
という言葉の意味は?

婚約者を殺され心に深い傷を持つ、汐里。
今だ癒えぬ哀しみと苦しみを抱えつつ、
仕事を続けている。それを周囲に悟られぬように
男っぽく振る舞うが、本当は優しさに満ちている。

そんな汐里に好意らしきものを抱く倫太郎だったが…。

ブラッド・ロンダリング──
過去を消し去り、自らの出自を新しく作りかえる血の洗浄。
そこまでしなければならないほど、この国の
加害者家族は生きられないのか?
本人には何の罪もないのに!?
その怒りが、痛みが、叫びが心にガツンと響く。

歪み切った正義に支配された今の日本。
それが、どれだけの人を傷つけているのだろうか?
そんな中でも、傷ついた人の心に寄り添う
優しさが随所に描かれている。

ラストに汐里たちの上司・柿内が、悩む倫太郎に
かけた言葉にしびれた!!
この物語の終わりにふさわしい思った。

『ブラッド・ロンダリング 警視庁捜査一課殺人犯捜査二係』
著者:吉川英梨
出版社:河出書房新社
価格:¥1,600(税別)