事故の隠蔽を命じられた元刑事の苦悩!「事故調」

以前から気になっていた作家さん。
伊兼源太郎さん。
実業之日本社「警視庁監察ファイル」
シリーズを読んで、とても面白ったので、
文庫新刊「事故調」も読みました。

組織の原理と己の正義のはざまで
苦悩する元刑事。
彼の葛藤が胸に迫りました。

自分の不注意で尊敬する先輩刑事を
死なせた過去をもつ、元刑事の黒木。

そんな過去を背負いつつ志村市職員
として再スタートした。

ある日、人工海岸を散歩していた親子を
悲劇が襲った!
散歩中、砂場がいきなり陥没し、10歳の
少年が落ちた。
救急搬送されたが、意識不明の重体に。

事故調査を任された黒木だったが、
市のトップから事故の隠蔽を命じられる。

そんな市には市民からの苦情が続々と入る。

黒木は、当時の人工海岸工事の担当者
に聴取するが、他人事で逃げられる。
さらに工事関係者を調べるが、
責任のなすりあいに終始。

黒木は忖度と怠慢にまみれた市政の
腐敗に眼を閉じ、組織に従おうとする。

しかし、刑事時代に同期だった男から、
逃げるのか?と指摘される。
黒木は、組織の原理と自分の矜持の間で
心が激しく揺れ動く。

市は、砂場が陥没することをずっと
前からわかっていたのではないか?
市に責任はないのか?

そんな黒木の逡巡する心に正義の灯
をつけたのは、被害者家族の切実な
想いだった。

そして、黒木は自らの手で市への
信頼を回復させる決意をする。

組織の腐敗に立ち向かうヒューマン
ドラマであり、誰が真実を知って
いたのかという、犯人探しも描かれた
社会派ミステリーでもある。

あらためて、自分はどうだろうと
考えさせられる。

『事故調』
著者:伊兼源太郎
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥780(税別)