「代償」を超えた衝撃展開!「本性」

新刊が出たら必ず眼にとまる作家・伊岡瞬さん。
文庫の新刊が次々と発売されています。
その中の「本性」(角川文庫)を読みました。

通勤バスの中で読み始めたら、伊岡
マジックにはまってしまい、止まらなく
なり危うく乗り過ごしそうになりました。

「代償」は、悪魔のような心を持つ男が
一人の男性を奈落の底に突き落とす。
その目をそむけたくなるような
衝撃展開は忘れることが出来ない。
読んでいて、心が冷えてゆくような
感覚に陥った。

そして、「本性」は「代償」の衝撃度
を軽く超え、ヒロインの底知れぬ
昏さと恐ろしさが際立つサスペンスだ!

〈サトウミサキ〉彼女に関わった者たちは
不幸のどん底に突き落とされる!?

お見合いパーティーで出会った40歳
独身の男は、サトウミサキの優しさに
魅了され、虜になってしまう。

就職できずファミレスでバイトを続ける男
は、サトウミサキという女性に翻弄される。

認知症で一人暮らしの老女。
最近自分の身の回りを世話してくれる
サトウミサキに心を許していた・・・。

サトウミサキが彼らに関わっているころ、
多摩川河川敷近くのレンタルコンテナから、
女性の腐乱死体が見つかり、警察は捜査を
開始していた。

一方、若手刑事の宮下は、一匹狼で
ベテランの安井刑事の相棒として、
焼死事件を追っていた。
単純な火災事故のはずが、安井だけは
その裏に潜むなんらかの事実を
確信しているようだった・・・。

この作品に登場する人物たちは、
ある意味、自分のことしか考えない
エゴのかたまりでクズだ。
サトウミサキは明らかに彼らを
ターゲットにしている・・・。
その目的は一体何なのか?

読み進めるうちに、サトウミサキと
彼らの関係性が明らかになり、バラバラ
だった事件と過去の出来事が繋がってゆく。
登場人物それぞれの物語を短編で
つむぎながら、事件の真相が判明してゆく
過程は面白過ぎる!
人間の皮を被った、獣たちの所業が明らかに!
その真相はあまりにも残酷すぎて
心が苦しくなった。

過去の因縁に囚われ、心が壊れてしまった
女性の「本性」を描くために、緻密に
仕組まれたサスペンス・ミステリー
その、恐ろしいまでの筆力に圧倒された。

『本性』
著者:伊岡瞬
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥800(税別)