江戸時代の華やかな世界の闇!『化け者心中』

選考委員満場一致!
第11回小説野生時代新人賞受賞作
蝉谷めぐ実さんの『化け者心中』を
読みました。

江戸時代、華やかな世界の裏で
どす黒い闇が蠢いている。
いつの時代も人間は変わらない。
業の深い生き物なのだ・・・。

文政の江戸、当代一の人気を
誇る中村座。
その座元から、鬼探しの依頼を
受けた鳥屋の藤九郎。

事の子細は、秋芝居のための
前読みで役者を集めたときに
起こったという。
暗闇の中で、役者はみんな揃っている。
それなのに、血まみれの首がひとつ
転がっていた・・・・。
座元は言った「この小屋に鬼がいる」と。

かつて一世を風靡した、稀代の女形、
田村魚之介(ととのすけ)と藤九郎は
事件の真相究明に乗り出す。

だが、役者たちへの追及は一筋縄ではいかない。
己の人生のすべてを芸にかけ、精進する役者たち。
斜に構える者もいれば、藤九郎の尋問など
ひらりとかわす者もいる。
素直で心優しく、人間の心の機微というものに
うとい藤九郎は、役者たちから軽くあしらわれる始末。
魚之介は皮肉屋で、彼らをいらだたせるばかり。

それでも次第に真相に近づいてゆく二人。

鬼とはいったい?

藤九郎、魚之介の強烈な人物描写が素晴らしい!
特に魚之介は、命ともいえる役者生命を
奪われ、自分が何者なのかわからなくなった
苛立ちが見事に表現されている。
そして、他の登場人物の芸に対する凄まじい執念が
彼らの心の闇を浮かびがらせてゆく。

鬼と人間との境はどこにある?
あまりにも強い執念は心に鬼を飼ってしまうのでは?
と思ってしまった。

息もつかせぬ展開!主人公二人の活躍に
心を鷲掴みされた。

選考委員満場一致も納得のデビュー作!

『化け者心中』
著者:蝉谷めぐ実
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,650(税別)