究極の盤上ミステリー!「神の悪手」

芦沢央さんの「神の悪手」を読みました。
ひりひりするような緊張感が漂う!
将棋をテーマにした盤上のミステリ短編集。

【弱い者】
大震災後、避難所で子供たちに将棋の
指導対局をする北上八段は、ある少年に
出会う。才能にあふれている、自分で
育ててみたい・・・そう思った瞬間、
将棋を知っているものであれば
「ああ~!!」と思わず声が出るほどの
悪手を打った。
しかし、その悪手の裏には非情な真実が
隠されていた。

【神の悪手】
棋士の養成所・奨励会。26歳までにプロに
ならなければ退会という絶望が待っている。
リーグ戦最終日前夜、岩城啓一のもとに
対局相手が訪ねてきた・・・。
追い詰められた男が将棋人生をかけた
アリバイ作りに挑む表題作。
行間から漂う圧迫感と緊張感が半端ない。
息詰まる対局シーン、凄味を感じた。

【ミイラ】
詰将棋雑誌で投稿作の検討を担当する常坂は
投稿された作品の一つに妙なルールがあること
に気づく。投稿者の名前に記憶がある。
実は投稿者は、ある宗教施設で父親を殺害
した少年だった・・・。
少年はこの詰将棋で何を訴えたかったのか?

【盤上の糸】
八歳の時、事故に遭い両親を亡くし、自身も
脳に障害を負った亀海要。
棋士の祖父と職人の祖母に育てられ、要は
将棋にのめり込んだ。将棋の一手が彼の
言葉のすべてとなった。
そしてタイトル戦で競っているのは向島久行。
勝ち負けにこだわり、生々しい感情を
内に秘める向島と、脳の障害を乗り越え
独特の感受性で対局に臨む要。
その対比が、言葉の限りを尽くして
描き出されている。最高の1作。

【恩返し】
駒師の兼春は、棋将戦七番勝負第二局で、
国芳棋将が師匠の駒よりも自分の駒を
選んだことで舞い上がった。
しかし最終的に棋将が選んだのは
師匠の駒だった。なぜ?途中で気が変わったのか?
兼春はずっとそのことで悩んでいた・・・。

時に希望に繋がる一手
時に破滅に繋がる一手・・・。

思いもよらぬ着想、練りに練られた設定、
慎重に選ばれた言葉の数々、そして瞠目のラスト。

心を揺さぶられる、傑作短編ミステリ。

『神の悪手』
著者:芦沢央
出版社:新潮社
価格:¥1,760(本体¥1600+税)