秀逸なミステリアンソロジー「迷 まよう」

「迷」をテーマにした短編小説集
「迷 まよう」読了。
名だたる短編の名手たちによるミステリ作品の
アンソロジー集。

一人暮らしを始めた女性。ある時期から
夜明けに2階の部屋から洗濯機の稼働音が・・。
その音に悩まされる日々。
不動産屋に連絡するとそこは空き部屋だと
言われる!?
ホラーか?ミステリーか?意外な結末に唸ってしまった。
「未事故物件」近藤史恵

酔っぱらって他人の家に上がり込み、
なぜか用意されていた鍋と日本酒を
たらふく頂戴し、そこにあったお猪口
をちゃっかり持って帰ってしまった
サラリーマン。ところが2週間後
その家で殺人事件が!!
泥酔して飛んでしまった記憶が徐々に
甦るととんでもない真実が明らかに!
その過程がとても面白かった。
「迷い家」福田和代

両親が離婚することになり、どちらに
つくのか決断を迫られた、中学生の姉と
まだ幼い弟。弟思いの姉は、弟のために
メリットある方へついていこうと考える。
冷静に両親の動向を探ると、父親の
秘密を知ることになる・・・。
両親の離婚について普通なら悲しむところ、
しかし冷めた眼で両親を見る中学生の姉が
凄いと感心。でも本当はつらいんだろうな~。
「沈みかけの船より、愛をこめて」乙一

海外ツアーの女性一人旅。トイレに寄った
ところで、ツアーバスに置き去りにされて
しまう。そこへやてきた一台の車。拙い
英語で事情を説明。ところが出した財布を
盗られ、車から追い出された。ツアーに
おいつくまでの恐怖の時間を経験。
その後、女性がとった行動とは・・・?
これは読み終わった後とても清々しい
気持ちになった。「置き去り」松村比呂美

老女の導きで古い洋館にたどり着いた女性たち。
その中の一人はこの洋館の関係者だった。
明治から昭和の間にこの洋館で起こった事件。
その真相が今暴かれる!
短編でありながら読み応え十分のミステリ!
「迷い鏡」篠田真由美

人の迷惑にならないように生きる。
幼い頃からそう言われて育った女性。
結婚を機に運命の歯車が狂ってしまった。
幼い息子を事故で亡くし・・・
実家の父を看取り、母を亡くし・・・
そして、女性はある決心をする。
「人に迷惑をかけるな」という言葉
の呪縛。それは恐ろしい結末へ・・・。
「女の一生」新津きよみ

定年後、妻を喪ったことを機に蝶々収集
という趣味を持った男。
妻の介護のため早期退職した男。
二人は、珍しい蝶を探す過程で出会った。
しかし・・・。
二人の男たちの間には因縁めいた関係が
あった。二人を繋いだものとは!?
読み進む内に徐々に明らかになる。
この展開に震える!
「迷蝶」柴田よしき

新人賞を受賞した後、消息がつかめない
作家の問い合わせを受けた大御所作家。
なんと、覆面作家らしい。
気になったので調べていると、若い時に
仲の良かった旧友から、突然会いたいと
連絡が入った・・・・。
覆面作家の正体に心が揺れる、大御所
作家の苦悩。『覆面作家』大沢在昌

作家さんそれぞれの持ち味が生かされた
作品の数々に酔いしれる。

『アミの会(仮)迷 まよう』
著者:大沢在昌/乙一/近藤史恵/篠田真由美/柴田よしき/
新津きよみ/福田和代/松村比呂美
出版社:実業之日本社(文庫)
価格:¥836(本体¥760+税)