著者の多彩な物語を堪能できる短編集「スモールワールズ」

初読みの作家さん。一穂ミチさんの
「スモールワールズ」読了。
著者の魅力が満載の短編集。
本屋大賞ノミネート作品。

夫婦円満を装う主婦と家庭に問題を抱えた少年
との触れあい。
「ネオンテトラ」

「秘密」を抱えて出戻ってきた、「魔王」と
異名がつく姉と弟との絆。
「魔王の帰還」

初孫の誕生に喜ぶ、母と娘。その夫。
しかし、悲劇が彼らを襲う。
「ピクニック」

兄を殺された女性とその兄を殺した加害者
の男性との手紙の交換で芽生えた絆。
「花うた」

素直に向き合うことが出来なかった父と子の
行く末は?
「愛を適量」

大切なことを言えないまま別れてしまった
先輩と後輩。
「式日」

6編の収録作品の中で特に心に残った作品。

「魔王の帰還」。女性とは思えない巨漢の
姉をもった弟。しかし姉はとても優しい
心の持ち主だった。なぜ離婚しなければ
ならないのか?そのあまりにも優しい真実に
思わず涙腺が崩壊した。

「ピクニック」。第74回日本推理作家
協会賞短編部門候補作。
祖母が面倒を見ていた中での子どもの突然死。
悲劇に襲われた家族の慟哭・・・
しかし!?その真実に背筋がさ~っと冷たく
なった。超サスペンスフルな展開に肝が冷えた。

「花うた」。被害者遺族と加害者。決して
相いれない関係の二人が手紙を交換する
ことによって心が繋がってゆく。
周りから見れば許されない関係だとしても
誰かを大切に思う心は変わらない。
それがひしひしと伝わってきた。

「愛を適量」。教師として日々やりすごすだけの
中年男性。しかし、昔別れた娘と突如
一緒に暮らすことになった。娘の秘密と
真っ向から向き合う。二人の新たな旅立ちに
明るく前向きになる気持ちをもらった。

胸が熱くなる、心に沁みるストーリーも
あれば、ゾッっとするサスペンス作品も
ある。多彩な一穂ミチワールドが堪能できる
傑作短編集。

『スモールワールズ』
著者:一穂ミチ
出版社:講談社
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)