重厚なリーガルミステリー!「刑事弁護人」

薬丸岳さんの「刑事弁護人」(新潮社)を
読みました。

凶悪な犯罪を犯した容疑者に対しても、
弁護をする必要はあるのか?という問いに
真向から挑んだ意欲作。とにかく最高に
面白かった。

事件が起きて重要参考人となり警察で
取り調べを受けることになると、法律も
なにもわからない者がたった一人で
国家権力と向き合うことになる。
警察の厳しい取り調べに根負けし、やっても
いないことをやったと言わざるおえない状況に
追い込まれる。
日本は、起訴されてしまうと99.9%有罪になってしまう。

刑事弁護人とは、被疑者や被告人の権利を守り、
その利益を何よりも優先させること。
さらに冤罪の悲劇を避けるためにも、被疑者を
支えることは重要なことなのだ。

人権派弁護士事務所で働く、若き弁護士・持月凛子は、
弁護を担当した事件関係者に殺された父の後を追い、
刑事弁護士となった。
相棒は、元警察官という曲者弁護士・西大輔。
ぶっきらぼうで法廷でも被告人の利益を考慮しない
弁護態度が災いし、仲間から浮いている。

凛子は、現役の女性警官がホスト殺しで
逮捕された事件の担当になった。
彼女は真面目で仕事熱心。犯罪被害者の心に
寄り添う優しさで感謝されていた。
容疑は殺人だったが、ホストの部屋で襲われ仕方なく
やってしまった、いわゆる正当防衛を主張し
容疑を否認した。

女性警官は、4年前に息子をなくし夫との
関係は冷え切っていたようだ。
心のわびしさを埋めるためにホスト通いに
至ったのか?

しかし、女性警官に接見した凛子は、
なんとなく違和感を抱く。
西と二人で彼女の身辺調査を開始。
ホストに入れあげるというイメージとは
ほど遠いと感じた。
さらに、供述調書と証言の食い違いが見られる。

女性警官とホストとの関係は何なのか?
なぜホストを殺害するに至ったのか?

凛子と西が調べを進めてゆくと、この事件の
想像を絶する真実にたどり着く・・・。

弁護士と被疑者の接見から、弁護士が被疑者のために
詳細に調査をする過程。真実を隠蔽しようとする
被疑者との対決など、非常に丁寧に描かれていて
刑事弁護人の執念が伝わってくる。
罪を犯し、激しく揺れ動く被疑者に語る
言葉は心に響いた。

被疑者が事件を起こした本当に理由を探る
過程はミステリーとして十分に堪能でき、
この謎解き部分が非常に面白い。

圧巻は、クライマックスの法廷シーン。
実にリアルに描かれていて、実際に法廷に
いるかのような臨場感がある。

弁護士と被疑者のやり取りから裁判までの過程を
ここまでリアルに描いた作品はないと思う。
近年まれにみる、重厚なリーガルミステリー。

『刑事弁護人』
著者:薬丸岳
出版社:新潮社
価格:¥2,145(¥1,950+税)