社会の暗部を抉り出した傑作ミステリー「蟻の棲み家」

望月諒子さんの「蟻の棲み家」読了。
前から気になっていた作家さんでした。
読めて正解!

多分、普通に日々を過ごしていたら、
出会うことはない、小説でしか知りえない
世界の話に焦点を充てた作品。

冒頭は、子どものころから最下層の人生を
歩んできた一人の男のプロローグから始まる。

そして、二人の女性の射殺死体が発見される。
彼女たちの周辺を調べていくと、彼女たちは
最下層で育ち、小さな子供を育てながら
売春で生計を立てていた。

また、弁当詰め工場の気弱な工場長が
たちの悪いクレーマーから恐喝されており
それは次第にエスカレート。
パートの娘を誘拐したから200万円
払えと工場に電話があった。
工場長は耐え切れず、本社に電話してくれと
言って切った。

この間抜けでバカげた誘拐事件はまたしても
エスカレート。馬鹿げた恐喝事件へと発展!

弁当詰め工場の本社総務部もあまりの馬鹿らしさに
犯人を罵倒する始末。

訳の分からない恐喝事件に警察関係者、被害者
マスメディアも混乱する・・・。

フリーのライターの木場美智子は、企業恐喝事件を
追っていた過程で、連続射殺事件との関連性に気づくが!

別々に起こっている事件・・・。
だが、その事件がある一点でつながった時
瞠目の真相にたどり着く!
ミステリー作品としての仕掛けの巧さが際立っている。

子どもの虐待が日々ニュースとなって報道される。
この本を読むと、なぜ親が子を虐待するのかと
言う疑問に応えてくれるのではないか?

貧困の連鎖、それがわかっていても、すぐには
手を打てない社会。
それが悲劇を生み続けているように思う。

目をそむけたくなるような現実を、小説という
手法でまざまざと見せつける。

圧倒的筆力で描かれ、どんなに途中で辞めようと
思っても絶対に最後まで読まされる!

社会派ミステリーの凄すぎる傑作だと思う。

『蟻の棲み家』
著者:望月諒子
出版社:新潮社
価格:825円 (本体750円+税)