とても感動しました!『ふくわらい』西加奈子

ミステリー作品ではありません。すみません!
本屋大賞ノミネート作品でとっても感動した作品です。
すごく面白く、さらに読み終わったとき、とても幸せな気分になり、黙っていられないほどです。
西加奈子『ふくわらい』朝日新聞出版です。

主人公の女性の名前は鳴木戸定。
父親がマルキ・ド・サドが好きで、それをもじって名づけられた。
小さい時から文字に興味を持ち、さらに母親から与えられた「ふくわらい」の魅力にとりつかれ、人の顔を見ると頭の中で「ふくわらい」をしてしまう定。
人の顔をじっと見つめてしまうので、学校ではクラスのみんなから気味悪がられていた。
子どものときに母親が亡くなり、変り者の父親に育てられる。
父親は旅行好き。だが、旅行先は観光客など行かない辺境ばかり。その土地の民族と関わり、その人たちと同じことを体験してみたり・・・・。
子どもに過激な体験をさせたとして、父親は学校や教育委員会、テレビなどで非難されたりした。
でも定は子供心に父親の確かな愛情を感じていたし、父親が好きだった。
そして、母親代わりの家政婦にもとても愛されていた。
定は変わった愛情の中で育ったが、心は無垢なまま大人になったのだった。

書籍編集者になった定は、その不気味な癖から、会社でも異質の空気を醸し出していた。
だが、気難しい作家でも真っ向から向き合い丁寧に応対するので、次第に皆から一目置かれるようになる。
ある日、ちょっと変わったプロレスラーの連載を本にするという話が定のもとへ舞い込む。
前任者からは、鬱病の年寄りのレスラーだから扱いが難しいよ。と釘をさされるが、定はそんなことは気にしない。作家の書く文章が好きだし、理解しようとする。
そして初めて会ったそのプロレスラーの顔を見たとき、定は衝撃を受ける。
彼女が理想とする、ふくわらいの顔がそこにあったからだ。
定はこのうつ病の年寄りプロレスラーの顔に心を奪われてしまう・・・・。

変わった名前、変わった癖で子供のころから気味悪がられていた定。
しかし彼女のひたむきさ、素直さに触れると誰もが幸福な気持ちになる。
後輩から恋愛の相談を受けたとき、「私はそういった心の機微にうといので、何も言えなくてごめんなさい」と素直に告白するシーンや、気難しい作家が、晴れないと小説が描けないと言えば、どこかの僻地で覚えた晴れ乞いをしたり、雨が降らないと描けないと言えば、雨乞いをしたり・・・。
周りから見ればバカなこだと思うけど、定は必死に気持ちに応えようとする。
その姿に感動する。とても気持ちよくなる。定みたいな人がいればなああ~と思ってしまう。
こういう作品はあまり読んだことがないはまさき。
定の思い、作者の想いがストーレートに伝わってきてほんとに感動しました。
とても素敵な作品。おススメです。

『ふくわらい』
著者:西加奈子
出版社:朝日新聞出版
価格:¥1,500(税別)