沼尻いくみは、警察官を取り締まる部署、警務部人事一課に異動になり、今まで一緒に仕事をしてきた仲間から、距離を置かれるようになる。
部署に女性はいくみ一人。あとはお堅いおじさん監察官ばかり。
複雑な気持ちを抱えたまま、仕事をする日々だ。
いくみは、この部署に異動になる前は、警察官がこれほどに規則違反をしているとは思いもよらなかった。
ホストに入れあげた中年の女性刑事。ホスト通いで借金まみれの女子高生を助けるふりをして、親からお金を巻き上げる、店を脅す。
しかし自分は悪いことをしていると思っていない。むしろ、女子高生を助けていると思っている。
また、暴対係に所属する真面目な刑事は、懇意にしている暴力団のボスが、人助けと称して荒稼ぎをするが、その片棒を知らず知らず担がされていた。
そして時効間近の凶悪強盗事件を捜査している刑事は、事件発生当初から黒だと思い込んでいる男性を検挙したい一心で、若い後輩刑事に無理難題を押し付けるばかりでなく、あらゆる手段を使って、男性を陥れようとしたことが発覚。
さらには、沼尻いくみ自身が、同僚からストーカー被害を受けることになる・・・。
正義であり続けねばならない、警察官。
しかし、あるきっかけ、ほんの些細なことで、堕ちてはいけない道にずるずると堕ちてゆく・・・・。それに気づかず、また、あるとき気がついても、もう後戻りはできないと開き直る。
本文中、沼尻いくみが‘最初からそんなつもりで警察官になったわけではないのに、どうして自ら選択してあえてそんな道を選んでしまったのだろうか・・・・そう考えるとなんともやるせない気持ちにさせられる’と落ち込む。
警察官であるまえに人間なのだ。人間の弱さゆえに悪に染まってしまう。ほんとに読んでいるとやるせなくなってしまい、思わずため息が出てしまった。
特に、暴力団のボスにまんまと踊らされた警官の物語は、つらかった。
現実の警察官も、このようして堕ちていくのかも知れない。
でも、先日の‘DJポリス’のような警官もいるのだ。
正義の警察官がもっと表舞台に出ることを祈りたい。
『禁猟区』
著者:乃南アサ
出版社:新潮社
価格:¥520(税別)