2013年江戸川乱歩賞受賞作『襲名犯』は感涙のミステリー

今年も、江戸川乱歩賞受賞作が発売となりました。
竹吉優輔『襲名犯』(講談社)です。選考委員の方々が絶賛!
特に、今野敏先生の選評コメントがグッときました。
‘読者に何かを伝えたいという思いが一番強かった作品だと感じた’とおっしゃっています。
作者の「運命と不条理に抗う人間を描きたいと思いました」という想いがストレートに伝わってきました。

 


14年前に起こった、連続猟奇殺人事件の犯人「ブージャム」こと新田秀哉の死刑が執行された。
逮捕当時、その甘いマスクと語り口から熱狂的な信者が生まれた。
しかし、新田の死からしばらくして、新たな惨劇が起こった。
殺害現場に遺されたものは「Im Booooooojum!!」というメッセージだった。
14年前に起こった猟奇殺人事件は、小さな街を恐怖のどん底にたたきこんだ。
時が経ち、犯人が死刑になっても、この街の住民たちは決して忘れることが出来ない。
そんな中の模倣犯の事件。
幼いころ、ブージャムの事件により、双子の兄・南城信を失った弟の南城仁は、再度うちのめされてしまう。
南城仁は、地元の図書館でレファレンスを担当する優しい青年だが、兄の死は仁の心に暗い影を落とし、容易には心を開くことが出来なかった。
だが、新たなる惨劇により、仁の過去が表に出てしまう。
第二のブージャムの不条理な連続殺人は単なる模倣犯なのか・・・?
新田の妻であった女性の証言から、新田の過去と人物像が浮かび上がる。
過去に兄を失くし、自らの運命を狂わされた仁は再び「ブージャム」に巻き込まれる。
その苦しみを乗り越えることが出来るのか?
仁の再起の過程を描き、さらに新たなブージャムとして登場した犯人の複雑な心理も非常にリアルに描かれている。
苦しみから這い上がろうとする人間の強さと、彼を助ける周りの人たちの優しさ、猟奇的な惨劇を繰り返す壊れた人間とを対比させながら、じわじわと事件の真相に迫っていく。
猟奇的な物語でありながら、人間の強さ、優しさ、温かさも描かれ心を揺さぶられる。
読み終わった後に希望の光が見える、感涙のミステリー。
デビュー作とは思えない衝撃作!

『襲名犯』
著者: 竹吉優輔
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)