『最後の証人』では、やめ検弁護士として登場した、佐方貞人。
ホテルの一室で起きた男女間のもつれの末の刺殺事件。
単純な事件だと誰もが考えたが、佐方の鋭い洞察力で、事件の真相を暴いた!
このシリーズは、そこからスタートした。
その佐方の若き検事時代を描いたのが、『検事の本懐』。
権力や圧力にも屈せず、事件を解決する佐方の姿は素晴らしかった。
この作品は‘大藪春彦賞’を授賞した傑作短編集。
そして最新刊『検事の死命』は、『検事の本懐』を上回る面白さだ。
こちらも2つの短編と1つの連作短編が収録されている。
第一話『心を掬う』は、郵便物紛失事件が起こり、犯人は判明しているが、
証拠が無いため、逮捕できない。佐方は証拠確保のため、事務官の増田や、
郵便監察官も驚愕する行動に出る。そして手紙に託された、老夫婦の心を救う。
第二話『業をおろす』は、前作『検事の本懐』のなかで弁護士だった佐方の父、
佐方陽世が恩人を裏切る形で罪を犯した事件の顛末が描かれているが、
この事件の真相が語られる。
人のために尽くすと言う思いで、弁護士の仕事を全うしようとした
佐方陽世の苦しみと潔さが描かれ、胸が熱くなった。
第三話と第四話『死命を賭ける 刑事部編』と『死命を賭ける 公判部編』は、
‘迷惑防止条例違反’の案件を徹底的に追及していく法廷ミステリーだ。
女子高生が満員電車で痴漢の被害に遭った。
現行犯逮捕された男は地元の有力者の娘婿だった。
送検されてきた男は「痴漢行為は絶対にやっていない!」と
さらに、女子高生から脅迫まがいのことを言われたと証言した。
佐方は男から聴取したことを、今度は女子高生に確認した。
女子高生は、脅迫まがいのことなど言った覚えはない、自分は
嘘を言っていない!と訴えた。
佐方と事務官の増田は、どちらも真実を語っているように思えた。
しかし、加害者が地元の有力者の娘婿ということ、さらに政治家の
後援をしていることもあり、佐方にかかる圧力はそうとうなものだった。
だが、佐方は検事として事件を明らかにすべく、女子高生と男の身辺を徹底的に調べた。
どちらが嘘を言っているのか?この案件、法廷まで持っていくことが出来るのか?
佐方の検事としての矜持が、人間の心の闇と衝撃の真実を白日の下にさらす!
一見クールだが、検事として正義を貫く佐方の心は熱く燃えている!
素晴らしい作品。
『検事の死命』
著者:柚月裕子
出版社:宝島社
価格:¥1,500(税別)