このミス大賞受賞作の傑作!「臨床真理」

「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」など佐方貞人が
正義を貫く検事、その後ヤメ検弁護士で登場する、法廷ミステリーを
読んで、すっかり柚月裕子さんのミステリー作品の虜になった、はまさき。
ですが、肝心のデビュー作を読んでいなかったので、改めて
柚月裕子の原点「臨床真理」を読みました。

え!?これデビュー作!?と思わず疑ってしまうくらいの
高クオリティのミステリー小説で、面白くっていっきに
読みました。
やっぱり、面白い作品を描く作家さんはデビュー作からして
違う!凄い!

臨床真理

ある福祉施設で、少女が手首を切って救急搬送された。
しかし、救急車の中で死亡。
同乗していた少女の友人らしき青年が、その死にショックを受け
救急車内で暴れたため、救急車は事故ってしまう。
その事故を起こしたことで、逮捕された青年・藤木司は、精神を
病み、地裁の指定病院に入院した。
その病院の臨床心理士・佐久間美帆は、藤木司の担当となる。
司は、同じ福祉施設で暮らしていた少女の自殺を受け入れられず
なかなか心を開こうとはしなかった。
だが、美帆の熱心なカウンセリングにより、司は美帆を信頼するようになる。
ある日、司は少女の死は他殺だったと訴える。
なぜそう思うのか?
真実を話していると白、嘘をついていると赤。
司は、声に色彩を感じることが出来る共感覚の持ち主だった。
だから嘘を見破ることが出来るのだ。
司は少女が自殺するはずがないと力説。
信じがたい話だったが、美帆は司の治療のために少女の死の真相を
明らかにすることを決意。
かつての同級生で、警察官となった栗原の協力を得て
司と少女が暮らした福祉施設を調べ始める・・・。
調査が進むにつれ、おぞましい出来事が明らかになる!!!

福祉施設の実態、精神疾患についての記述、また失語症
など、障がいをもった人物が多く登場する。
特に失語症に関する記述は秀逸で、失語症者の障がいの
状態が非常に詳しく丁寧に描いてある。
自殺した少女が失語症で、彼女が訓練の過程でパソコンで
書いていた日記に秘密が隠されているのだ。

障がい者が登場するミステリーって、非常に難度が
高いと思う。だが、それを全く感じさせない描き方に脱帽!
ミステリーでありながら、障がい者を優しく包み込むような
描き方に心を揺さぶられた。
硝子細工のように脆く、純粋な心の持っている人たちが
安心して暮らせるような社会であって欲しいという心遣いが
伝わってくるような作品だった。

『臨床真理 上下』
著者:柚月裕子
出版社:宝島社(文庫)
価格:上下巻各¥438円(税別)