恐怖のバイオホラー「ヨモツイクサ」

知念実希人さんの『ヨモツイクサ』(双葉社)読了。
血も涙もない恐ろしいモンスターに
次々と人が襲われる。
禁断の森へと入った者たちの末路が凄すぎる・・・。

著者には珍しく容赦ないほど怖いストーリー。

黄泉の森は、アイヌの人々が恐れた禁断の地。
そこがリゾート開発されることになり、
その会社の作業員が次々と行方不明になった。

警察は当初ヒグマに襲われたのではと
判断したが、殺戮の仕方が尋常ではなく、
伝説の「ヨモツイクサ」の仕業ではないかとの
疑いが・・・・。

次々と人間を捕食する、正体不明のモンスター
「ヨモツイクサ」VS女医。
過去に家族が神隠しにあい、
その原因を探る中で
遭遇したモンスター。

なぜこんなモンスターが生まれたのか?
昔から伝わる伝説を絡め、現代医学を駆使して
不気味な生物の正体を探るヒロイン。

体重が1tもあるヒグマでさえかなわない、
女医の友人で、最強の猟師も敵の罠にはまる!?

恐るべきモンスターとの熾烈な戦いの
描写が圧巻過ぎる!
そして隠された「超」弩級、
それまでの世界観がひっくり返るほどの
衝撃的真相!

難しい医学用語も多数出てくるが、
それを凌駕する圧倒的リーダビリティで
読者を戦慄の物語の世界へと誘う。

超怖いけど面白すぎる作品!

『ヨモツイクサ』
著者:知念実希人
出版社:双葉社
価格:¥1,848(本体¥1,680+税)

ドラマ化好評!「合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明」

柚月裕子さんの『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』
(講談社)読了。
主役の二人をテレビでは天海祐希さんと松下洸平さんが
演じていて、あまりにもはまっているので、
読んでいると二人のイメージが頭に浮かんできて
楽しい読書だった。

不祥事で弁護士資格をはく奪された、
上水流涼子は、「上水流エージェンシー」
を立ち上げた。

請け負う仕事は、ちょっとヤバそうな仕事。
ただ、傷害と殺人だけは絶対に受けない。
それがルールだ。

相棒は、頭脳明晰でモデル並みの容姿を持つ貴山。
人間嫌いだが、動物には愛情を注ぐ。

第一弾では、詐欺師、資産家、ヤクザ、賭博に
からんだ事件を解決。

第二弾は、中編3作品を収録。

謎の積み荷を乗せた車を捜索して欲しいとの依頼。
積み荷は何か尋ねるが、とにかく捜索の一点張り。
高額な報酬に、涼子は依頼を引き受けるが、
貴山は、渋い顔をしている。しかし引き受けた
からには動くしかない・・・調べてみると
とんでもない積み荷だと言うことがわかり・・・。
「物理的にあり得ない」

母親から、息子の親権を取り戻して欲しいとの
依頼が入る。成功報酬は500万円。
しばらく依頼がなかったために、涼子は
飛びつくが、貴山はまたしても渋い顔。
旦那と離婚して6年も経過してから依頼する
とは何か理由があるのでは・・・?
二人が母親の周辺を調べると、案の定
母親の浮気性が原因で旦那から三行半をつきつけられ
離婚に至っていた。
そんな母親は、ある計画を練っていた・・・。
「倫理的にあり得ない」

腐れ縁の丹波刑事から珍しく依頼された。
上司の娘が精神を病んで入院している。
彼女を立ち直らせて欲しいとのことだ。
涼子は精神科医ではない。
そんなことは医者の仕事だと突っぱねたが
丹波は引かない。
メリットもあると言われた涼子は渋々
依頼を受ける。
病院で出会った少女は、生きる気力を無くしていた。
一体、何が原因なのか?
涼子たちが調べると、彼女の病の影には
悲劇が隠されていた。
「立場的にあり得ない」

今回も、悪い奴らにはそれ相当のに罰を与える
涼子たち。
欲に目がくらんだ者たちへの制裁は厳しい。
逆に、心を病んだ少女への想いは温かく
誰にも救えなかった少女を救うのだ。

読後の爽快感は、今作も半端ない。
上水流涼子と貴山コンビ。
ドラマ化されて、天海祐希さんと
松下洸平さんの息もピッタリで、
面白さも倍増!

絶対に読んで欲しい一冊。

『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』
著者:柚月裕子
出版社:講談社
価格:¥1,760(本体¥1,600+税)

ネタバレ厳禁!納得の「世界でいちばん透きとおった物語」

今一番話題のミステリー作品
杉井光さんの「世界でいちばん透きとおった物語」
(新潮文庫NEX)読了。

ミステリー作家の大御所と言われた
宮内彰吾が亡くなった。

宮内は妻子がありながら、多数の女性と
浮名を流した。
その中の一人の女性とは子どもまで作っていた。
宮内に隠し子がいることは業界では誰もが知る
事実だった。

その隠し子が「僕」だった。
亡くなった母親から話を聞いていたが、
会ったこともない父の死には何の思いもなかった。

ところが、本妻の息子から遺作があると
知らされる。
校正をしていた母の仕事仲間で編集者の
霧子も驚いていた。

遺作を出版して販売すればまた売れる!
本妻の息子に、父の遺作
「世界でいちばん透きとおった物語」の捜索を
依頼された「僕」は、霧子の助言をもとに
探し始める。

母とともに穏やかでつましい生活を送っていた
主人公が、父の死で様々な人たちと出会いながら
父という人物を次第に身近に感じてゆく過程は
とっても良かった。
また、遺作捜索で出版を阻む人物は誰なのか?
ミステリー的展開も興味深い。

しかし、この作品にはとても重要なファクターが
隠されている。

あまりにも触れるとネタバレする危険性が
あるのでこれ以上書けないが、読み進めてゆくと
仰天する仕掛けに度肝を抜かれること、間違いない!

『世界でいちばん透きとおった物語』
著者:杉井光
出版社:新潮社(新潮文庫NEX)
価格:¥737(本体¥670+税)

今注目の社会派ミステリー作家・望月諒子さんのデビュー作「神の手」

先日、ドラマ化放送されたばかりの
望月諒子さんの「神の手」読了。
フリージャーナリスト・木部美智子
シリーズ第一弾。
たまたま読み終わっていて、
ドラマを視たので、小説の中の不明な点が
スッキリわかって良かった!

文芸系雑誌の編集長を務める三村のもとへ
広瀬という医師から電話が入った。
「高岡真紀という女性を知っているのか?」と。
三村には記憶のない女性だった。
ところが、その女性名義で小説のゲラが送られてきた。

その作品は、三村が過去に封印した作品。
小説の作者は来生恭子でという女性で、
行方不明になっていた。

なぜ来生恭子の小説を高岡真紀が持って
いるのか?
三村は高岡と会うが、顔は全くの別人。
しかし、しぐさは恭子とそっくりで、、
10年前に三村に話したことと全く同じこと
を話した。

三村は高岡真紀に疑惑を抱く。

フリージャーナリストの木部美智子は、
3年前の誘拐事件でただ一人行方不明に
なってしまった男の子の取材を続けていた。
ある日、同じジャーナリスト仲間の
高岡真紀から、盗作疑惑の情報を得る。

それは、つい先日新世紀文学賞を受賞した
本郷素子「花の人」についてだった・・・。

そして、木部はその盗作疑惑を取材するうちに、
三村に繋がり、やがて来生恭子に辿り着く。

恭子は妹に夥しい数の作品を預けていた。
なぜ彼女は多くの作品を妹に預けたまま
失踪したのか?
そこには恐ろしい真相が隠されていた。

読み進むうちに謎が深まる展開。
誰がどこでどうつながってゆくのか?
迷宮をさまよっているような感覚に陥る。

来生恭子の小説を描くことへの異常なまでの
執着、何かを描かずにはいられない、
生きられない、その業の深さに戦慄する。

この深い謎を、記者・木部とともに
追いかけている気持ちで読んだ。

圧巻のデビュー作!!

『神の手』
著者:望月諒子
出版社:集英社(文庫)
価格:¥935(本体¥850+税)

悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊「殺戮の狂詩曲」

中山七里さんの数多くの作品の中で
一番好きなシリーズ。

弁護士・御子柴礼司シリーズ最新刊
「殺戮の狂詩曲」(講談社)読了。

少女を惨殺した過去を持つ、弁護士・御子柴礼司。
悪名高い弁護士で高額な弁護費用、
裁判に勝つためならどんなあくどい手も使う。
しかし、御子柴は少しずつ変化してゆく。

高級老人ホームで働く忍野は、入念な計画を
たて、ある夜実行に及んだ。
それは、この施設に入所している老人34人全員を
抹殺することだった。

しかし、9人を惨殺したところで、
戦闘不能にしたはずの介護職員に取り抑えられ、
現行犯逮捕された。

取調べで殺害動機を聞かれた忍野は、
「生産性のない上級国民。生きていたって
何の価値もない。消えてもらった方が
世のためだ。」と嘯き、反省の態度すら
見せない。

ニュースでは、「令和最悪の凶悪事件」と
報道され、ワイドショー他メディアを賑わせた。

その凶悪犯・忍野の弁護を名乗り出たのは、
悪評名高い、御子柴礼司だった。
御子柴の過去が公になり、依頼人が減っている
のに、こんなバケモノみたいな被告の
弁護などしたらさら依頼人が減ると心配する
事務員・洋子。
そして、顧問先のヤクザ事務所の山崎も
仕事を選べと言ってきた。

そんな雑音に社会正義で真向対決する御子柴。

御子柴は彼なりに忍野に裁判の厳しさ、遺族の
怨嗟の恐ろしさを説くが、取り調べで供述した
ことを繰り返す。
本当に忍野が自分で考えたことだろうかと
疑い始める。

この裁判、御子柴が勝っても負けても
ダメージは大きい。損害は図りしれない。

それなのに、どこに勝機があるのか?
最後の最後までわらない。
ところが、そんなタイミングでとんでもない
どんでん返しがぶち込まれている!
あまりの衝撃に言葉を失う!

またしても、御子柴の激烈な反撃に
やられてしまう。
御子柴って実在するのではないかと
疑ってしまうくらい、強烈な個性を
放っている。

実際にあった事件を彷彿とさせる物語。
ここまで描いた著者の勇気に脱帽だ。

『殺戮の狂詩曲』
著者:中山七里
出版社:講談社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

解決篇が袋とじ!?話題のポケミス「死と奇術師」

トム・ミードのデビュー作「死と奇術師」
(早川書房)読了!
解決篇は、なんと!ポケミス史上初の
袋とじ!ワクワクします!

1936年、ロンドン。
舞台女優のデラは、秘密を抱えていた。
彼女はある人物へ相談しようとしていた。

それは、高名な心理学者・リーズ博士だった。
デラは彼の患者Bだ。

その日、リーズ博士は夜遅くに来る客を待っていた。
使用人のミセス・ターナーにも来客の話は通しておいた。
雨の中、その客はやってきた。

リーズ博士から案内は無用と言われていたので、
部屋の説明だけして、ミセス・ターナーは仕事に戻った。

その時、女優のデラが突然やってきた。
ミセス・ターナーは博士は来客中だと言って
デラを追い返そうとしたが、デラは無理やり
家の中に入り、博士の部屋まで押しかけようとした。

博士に呼びかけたが、まったく反応がない。
何か変だと感じたミセス・ターナーとデラは
裏技を使って博士の部屋の鍵を開けると、
喉を掻き切られ、息絶えた博士を発見した。

博士の書斎は密室状態、さらに凶器も見つからず、
死の直前に博士を訪れた謎の男の正体も
不明だった。
外に出るにはミセス・ターナーたちが
いる居間を通らなければならない。
しかし男が通った気配はなかった。
犯人はどうやって逃げたのか?

不可解な事件、いわゆる不可能犯罪に頭を
悩ませた、ジョージ・フリンと警部補は、
元奇術師の私立探偵・ジョセフ・スペクターに
捜査協力を依頼するが・・・。

多重に仕掛けられた不可能犯罪、
練り練られた密室トリック、さらに多数の
妖しい容疑者たち・・・。
登場人物たちの精神病理的な部分にも斬り込んでいて、
興味深い。

古典ミステリへのリスペクトが半端なく、
時代背景や舞台設定など、カーやクイーンの
世界観が好きなミステリファンにはたまらない作品。
おまけに、解決篇が袋とじという読者挑戦もので、
推理する楽しさも味わえる!!
デビュー作とは思えない、完成度の高いミステリ作品。

『死と奇術師』
著者:トム・ミード/中山宥訳
出版社:早川書房(ポケットミステリ)
価格:¥1,980(¥1,800+税)

人気シリーズ「行動心理捜査官・楯岡絵麻」の最新刊「ホワイ・ダニット」

佐藤青南さんの人気シリーズ
「行動心理捜査官・楯岡絵麻」の最新作・
「ホワイ・ダニット」(宝島社)読了。

ドラマ化もされ、読んでいると楯岡の
イメージは、主演女優さんに重なって
しまう。

同棲中のカップルが自分たちの日常を
動画配信する「カップルチャンネル」で
人気のある「はるみきチャンネル」。
男性が一人だけで配信し始めた。
ところがその生配信中、何者かが侵入し、
男性を襲った。
視聴者は、「ドッキリ」を疑ったが、
男性は本当に殺されていたのだ。
犯人は早々に逮捕されたが、警察が納得
できる動機を語ることはなく、なぜか
警察をバカにしたような態度をとった。
そこで、行動心捜査官の楯岡が呼ばれる・・・。
【殺人動画にいいねとチャンネル登録お願いします】

ホストクラブ「アレキサンドライト」で働く
山名が遺体で発見された。
警察が捜査を進めると、山名は店のカリスマホスト・
銀河から日々説教を喰らっていたらしい。
山名が殺された日は、店のホスト仲間15人ほどで、
飲み会をやっていた。そこでも銀河は山名に
説教をしていたが、やがて二人の姿が見えなく
なり、銀河一人が店に戻ってきた。
その証言から、警察は銀河を引っ張ってきていた。
そして、取り調べに楯岡が呼ばれたのだ。
美人の警察官がやってきて気をよくした
銀河は、カリスマホストの実力を見せようと
楯岡に向かうが・・・・。
【指名料はおまえの命で】

天才子役・染井佳乃の母親、史子が自宅マンションの
バルコニーから転落死した。
不慮の事故で片づけられたが、楯岡が葬儀の場で
コメントをする夫に疑惑を抱き、それから五日後、
夫を調べるために、マンションを訪ねた。
楯岡が夫に質問するが、嘘を言っているのは
見え見えだった。
一旦、外に出てから、待機させていた捜査一課の
刑事とともに再度夫に事情聴取すると・・・。
【天才子役はミスキャスト】

楯岡絵麻をいたぶって弄ぶ、殺人鬼・楠木ゆりか。
十二人を殺害した犯人。死刑囚だが、
獄中結婚した夫・畑中を使って、殺人事件を
起こしたのか!?と詰め寄る楯岡の聴取を
のらりくらりとかわす。
殺されたのは、元教師で夜の街でたむろする
未成年を補導する活動で有名になった男。
彼のキャッシュカードを使って金を引き出した
男が逮捕された。楯岡たちは、事件のからくりを
暴くため、男を追及するが・・・。
【誰がために鐘は鳴る】

「ホワイ・ダニット」は、殺人の動機が
テーマになっている。
容疑者はなぜ動機を隠すのか?
彼らにはそれぞれ 事情がある。しかしそれは
身勝手な理由だ。それで人を殺していいはずはない。
容疑者がひた隠す、その動機に迫ってゆく過程は
ひねりが効いていてとても面白かった。
特に、楯岡が容疑者を安心させておいて、
次第に核心をついてゆき、真相を語らせる
シーンは爽快。
ただ、子どもが登場する物語は、少し切なくて
悲しかった。

事件解決後、楯岡の相棒・西野や
捜査一課の連中と打ち上げをやる
シーンはホッとする。

『ホワイ・ダニット 行動心理捜査官・楯岡絵麻』
著者:佐藤青南
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥780(¥709+税)

記者&刑事異色コンビの活躍!シリーズ第5弾「オフマイク」

今野敏さんの記者と刑事が「たまたま」(?)
同じ事件を追うことになる人気シリーズの
文庫最新刊「オフマイク」を読了。

警視庁捜査一課特命捜査係継続捜査班の
黒田は、捜査二課の同期の刑事から、
二十年前に起こった大学生の自殺案件
について再捜査して欲しいと頼まれる。
その死に大物政治家の贈収賄が関わって
いる可能性があると言われる。

秘密裏にと念を押された、黒田と相棒の
谷口は自殺した大学生の周辺から調べ
を進めることに。

一方、TBNの報道番組のデスク鳩村は、
「ニュースイレブン」が打ち切りになるかも
しれないと言う噂を遊軍記者・布施から
聞かされる。

布施は飄々としていて、他人に警戒心を
抱かせない。誰とも容易く距離を縮められる、
そんな性格で、大物と呼ばれる人物などと
交友があり、とても人脈が広かった。
IT長者の藤巻とも交友があり、番組
打ち切りの噂の元は、藤巻だと判明する。

そして、藤巻の過去を調べたことで、
大学生自殺事件との関連が明らかになる。
事件のキーマンは藤巻だと黒田は推理
するが・・・。
そこで新たな事件が起こってしまう・・・。

布施の情報が黒田の事件と結びつき、藤巻の
過去を暴く。
すると、二十年前の大学生自殺事件の真相は
意外な様相を見せ始める・・・。

布施の機転と、黒田の推理。
このコンビネーションが埋もれていた事件を
明らかにし解決に導く。

異色のコンビの活躍に、いつも心
踊らされる!
さわやかなラストに感動!

『オフマイク』
著者:今野敏
出版社:集英社(文庫)
価格:¥902(¥820+税)

比嘉姉妹シリーズ初の中篇集!「さえづちの眼」

霊能者・比嘉姉妹が登場するシリーズ。
今作は中編が3篇が収録されている。
どの作品も読むとゾワッと背筋に
戦慄が奔る。

貧しくて諍いの絶えない両親。母親からの呪縛。
それに耐えきれず、犯罪に手を染めるように
なったタクミは、フリースクール
「鎌田ハウス」に預けられる。
子どもたちからおっさんと呼ばれる
男にタクミは次第に心を許し、成長してゆく。
ところが、ある日タクミはおっさんと
「鎌田ハウス」の秘密を知る。
恐ろしい何かが憑いたこの家で子どもたちを
襲うものとは何なのか・・・!?
タクミを助けて欲しいと、比嘉真琴に依頼
してきた少女はかつて真琴が助けた少女だった・・・。
【母と】

子どもの頃にUFOを見たと証言した男の子二人。
当時、雑誌やテレビ取り上げられ、町も
彼らも有名になった。巴杵池(はぎねいけ)事件。
その男の子の一人は大人になり、母と一緒に
旅館を経営していた。ある日そこへ子供つれの
母子が宿泊する。
もう一方の男は、その事件を根に持ち旅館に
やってきて大騒ぎをした。
その翌日、巴杵池で男の死体があがった・・。
当時のUFO事件の真相は、想像を絶するもの
だった。
【あの日の光は今も】

昭和30年代、町の大きな屋敷・架守(カガミ)家に
やってきた家政婦は、その家で起こる奇々怪々な
出来事を家政婦紹介所の所長あてに手紙で送っていた。
廊下に響く何かのはい回る音、深夜に光る赤い目、
やがて架守家の一人娘が失踪。
数十年後には当主が不可解な言葉を残し絶命。
この家は何かに祟られていると感じた
若き当主は、架守家への祟りを鎮めるために
霊能者・比嘉琴子に依頼する。
【さえづちの眼】

得体の知れない強烈な悪意を放つ者と
比嘉真琴との壮絶なバトルシーンが
圧倒的迫力を持って描かれる!

UFO事件の裏にあった予想外の真実。
男性の遠い記憶から当時の事件の
真相に迫る、ミステリー。真実が徐々に
明かされる過程の推理が際立っていると思った。

これは完全にホラーだと思って
読んだら完全に騙される。
人間のどす黒い闇と比嘉琴子の駆け引きが
たまらなく面白かった。

『さえづちの眼』
著者:澤村伊智
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥836(¥760+税)

役者で刑事!?新たなヒロイン誕生!「アクション捜査一課刈谷杏奈の事件簿」

榎本憲男さんの新作「アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿」読了。

榎本さんの描く警察小説シリーズは、
「巡査長真行寺弘道」をはじめ、
「DASPA吉良大介」「相棒はJK」シリーズなど、
主人公はみなくせ者刑事揃い。
本当に魅力的な登場人物ばかりだ。

そして今度の主人公は、女優であり刑事という
二足の草鞋で事件と向き合う、かっこいい
女性刑事が登場する。

捜査一課の刑事・刈谷杏奈は、趣味で映画製作と
女優業に励み、警察では少し浮き気味だ。

ある日、山奥で女装した男性の首つり死体が
見つかった。

捜査一課では、LGBTについて問題発言を
し炎上騒ぎを起こした女性議員が、演説中に
男二人に襲撃された事件で
ローラー作戦の指示が出ていた。

刈谷ももちろんローラー作戦に参加できると
思っていたが、上司から別の事件の捜査を
命じられる。
それは、山奥で首を吊って死んだ男の
捜査だった。

上司からあきる野署に勤務する内藤刑事
を訪ねるように指示された刈谷は早速動く。

首つり事件について刈谷は、検屍報告から
得た情報で事件性あり判断。しかし内藤は、
調べもしないで、「自殺」と断定する。
刈谷は内藤のことを事なかれ主義の
無能刑事だと感じた。

しかし、ある状況から彼らの捜査は一変する。
上層部から首つり男は「自殺」と報告しろ
と言われるが、刈谷と内藤は何かと理由を
つけ、捜査報告書の提出を拒んだ。

それは、炎上した女性議員と男の繋がりを
入手したからだった。

男の正体とは?女性議員の真の目的は
何なのか?
刈谷と内藤は推理を展開する。

二人の推理は徐々に核心に迫ってゆくが・・・。
それはとても危険な推理だった。

今の日本社会、政治、ビジネスのあり方に
問題提起する、社会派警察ミステリー。

小説の中に出てくる「ある言葉」がグサッと心に
刺さる。
この作品を読んでいると、確かにこの言葉通りだ。
多分、これが一番言いたかったのではないかと
思ってしまった・・・。

榎本さんの作品を読むと、気づきたくないことに
嫌でも気づかされる。
でも気づかなければならないと思う。

『アクション 捜査一課刈谷杏奈の事件簿』
著者:榎本憲男
出版社:幻冬舎
価格:¥825(¥750+税)