絶望からの再起を描く。「罪の境界」

薬丸岳さんの「罪の境界」(幻冬舎)読了。

通り魔事件に遭遇し、一瞬にして平和だった
日常を壊された女性。彼女を大切に思う人たち
の励ましで、再起してゆく過程に心が救われる。

彼氏と誕生日デートのため、渋谷で約束を
していた明香里は、彼氏にドタキャンされ、
哀しい気分で帰路につく。
ところが、突然通り魔事件に遭遇。
斧で顔を傷つけられ、全身に十七か所もの傷を負う。
彼女をかばった男性がいなければ死んでいただろう。
明香里をかばい倒れた男性の最期の言葉は
「約束は守った・・・伝えてほしい」だった。

一命はとりとめたものの、将来の希望も
何もかも消え、絶望だけが支配する日々を送る明香里。
恋人の航平は自分がその日ドタキャンしたことで
事件に巻き込まれたと思い、彼女を守ろうとする。

加害者の小野寺は、通り魔事件を起こした動機を
無期懲役になりたいからと言った。
そんな小野寺に興味を持ったライターの溝口は、
小野寺のこれまでの人生を本にまとめることを
思いつき、彼に接近する。

明香里をかばい、最期の言葉を残し亡くなった
男性は飯山と言った。
その飯山の言葉を伝えるため明香里は自ら動き出す。
誰に向けた言葉だったのか・・・?
そして、そんな明香里に航平は寄り添った・・・。

明香里は、飯山の言葉を伝える旅で、自分の人生
とこれからのことを見つめなおし、失いかけた
大切なものをとりもどす。

一方、幼い時母に捨てられた小野寺は凶行に奔った。

被害者と加害者。二つを分けたものは一体何だったのか?

法廷での明香里と小野寺の対決には息をのむ。
被害者の明香里・飯山と加害者・小野寺の間に横たわる境界。
それは、「愛」を知ったものと、それに気づけず
復讐に奔った愚者との差ではないか?

明香里が小野寺に放った言葉と、小野寺の母が
溝口に伝えたこと。
二人の言葉は強烈に胸に響く。

「罪の境界」というこのタイトルがいかに
深い意味を持つのか。
改めて考えさせられる作品だと思う。

『罪の境界』
著者:薬丸岳
出版社:幻冬舎
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)