味わい深いからうま長編「カレーの時間」。

日ごろ、ミステリーしか読まないが、
何かのきっかけに文芸小説を読むこともある。
その作品が寺地はるなさんの「カレーの時間」。
版元さんプッシュで読んでみたら、なんとも
言えない味わい深い物語だった・・・。

娘3人を男手一つで育てた、昭和一桁世代の祖父。
頑固で声が大きくて、気に入らないことがあると
すぐに怒鳴る。娘たちからも疎まれている。

80歳を過ぎて、一度心臓の病気で倒れたことも
ある祖父。一人暮らしをさせるのは心配
だからと孫の僕が同居することになった。
絶対に無理だと母や叔母たちには言ったのに・・・。

一緒に暮らしてみると、やはり文句ばっかり・・
男は男らしくしろ!と顔をみれば言ってくる。
令和の時代に、何を時代遅れなことを言ってるんだ!
内心、憤りを隠せない。

そんな毎日に辟易していたが、祖父の家の裏手に
ちょっと可愛いシングルマザーらしい女性と
息子が住んでいて、胸がときめく・・・。

それにしても、とにかく祖父といると事件に
巻き込まれる。あ~っと思ったときは、
祖父が大量に買い込んでいるレトルトカレー
をアレンジして食べる。なかなかいける~。
事件のあとはケロッとして祖父も喜んで食べた・・・。

終戦後、食品会社に勤め、レトルトカレーの
販売担当をした男。同僚が必死に開発した
レトルトカレーを営業するが一向に売れない・・・。
なんで売れないんだ?時々同僚にあたる。

知人の紹介で結婚したものの、妻の気持ちが
ずっとわからずにいた。でも娘たち3人は、
可愛くてしょうがない。
しかし、ある日妻は出て行ってしまった。
子どもを残して・・・。

祖父が孫に語る物語は切なくて切なくて・・・
なぜ妻が出て行ったのか?
残された子どもたちのために、祖父は何を
したのか?
その真相が明かされたときは、思わず涙がポロリ。

頑固一徹で一途な祖父と、優男風令和男子の
孫とのかけあいがまるで漫才みたいで面白い。
しかし、祖父の切なすぎる人生が涙を誘う。
男らしいだけじゃ足りないものがあるということを
気づけなかったのか!?

ピリッと辛みが効いた中にもほんのり甘さを
感じさせる飛び切りおいしいカレーのような物語。
じわじわと心に沁みた・・・。

作中、孫が作るレトルトカレーレシピ。
絶対に作りたくなる。

『カレーの時間』
著者:寺地はるな
出版社:実業之日本社
価格:1,760円 (本体1,600円+税)

超豪華執筆陣!傑作短編揃い!「Jミステリー2022SPRING」

超豪華執筆陣によるミステリーの短編集が
発売になりました!!!!
東野圭吾・今村昌弘・芦沢央・青柳碧人・
織守きょうや・知念実希人
この輝けるラインナップ!ミステリー好き
にはたまりません!
しかも、文庫書下ろしです。新作です!

個人でリノベーションを手掛ける真世は、
ある女性から、築20年以上のマンション
のリノベーションを依頼された。
しかし、真世は女性に対し何となく
違和感を感じてしまう。
詳細を打ち合わせるために、真世は叔父の
カフェバーを使わせてもらうことに。
しかし、この叔父はただ者ではない。詮索
好きでおせっかい。今回も叔父が余計な
推理を働かせ、女性の秘密を暴こうと画策・・・。
東野マジック炸裂!二転三転の展開は圧巻。
短編なのに凄い読み応え!
「リノベの女」東野圭吾

どうしても別れたくない女性の部屋へ話を
聞いて欲しいと言って上がり込み、感情に
任せ女性を殺してしまった健吾。
後始末で頭を巡らせているときインターホンが
鳴った。どうすればいい?
弁護士と名乗る男が、健吾の隙をついて
女性の部屋へやってきた。女性と約束をしていたらしい。
弁護士は、健吾に色々と質問をしてくる。
これは、刑事コロンボ的展開・・・!と思っていたら
やられた!ありえない展開と結末に絶句。
今村さんじゃないと思いつかない展開!凄い…。
「ある部屋にて」今村昌弘

頭がいい子が育つ家が、たまたま殺人犯が
育った家とイコールだった!?
保育園に通う息子の一番の仲良しの男の子は
殺人犯が育った家に住んでいた・・・・。
エリートの道を歩き続け挫折を知らない
男はたった一度のつまずきで、人生を投げ
殺人犯となった。
その男はまだ捕まっていない・・・。
「家」を巡る‘噂’に翻弄される家族の
姿を描く!ひたひたと近づいてくる
恐怖を見事な心理描写で表している。
「立体パズル」芦沢央

ネズミで地雷撤去!?そんな研究をしている
研究所で爆発事故が起こり、研究所副所長が死んだ。
早速、自称頭がいい警察官・由赤丸警部は
部下とともに調査を始める。
自殺願望が強い女性所長や、爆死した
副所長と反目していた第一発見者の
女性所員など、怪しげな登場人物たち。
由赤丸警部の推理が冴えわたり、驚愕の真相が
明らかになる!
マジックのような密室トリック!
ユーモアとシリアスの絶妙な匙加減。
「むかしむかしあるところに死体がありました」の
著者が描く、瞠目のミステリー。
「叶えよ、アフリカオニネズミ」青柳碧人

出張から戻ってきた夫は、リビングで倒れている
妻を発見。どうも死んでいるようだ。
幼い息子は大丈夫か?息子は隣の和室で眠っていた。
警察に聴取されるが、疑われていると感じた。
果たして夫が犯人なのか?
意外な目撃者の登場で、あまりにも予想外の結末!
夫婦とは何?とちょっと考えさせられるミステリー。
「目撃者」織守きょうや

神の使いの黒猫。地縛霊をあるべき場所に
連れてゆくのが役目。普段は人間の飼い猫と
して暮らしているけれど、地縛霊が出そうな
気配を感じると行動を起こす。
飼い主が旅行に出ることになり、早速行動を
開始。すると強い「腐臭」に導かれ辿り着いた
先に若い男性が首を吊ろうとしていた・・・。
これは地縛霊になると思った黒猫は男に向かって
いった。驚いた男は気絶。黒猫は彼の記憶の
中に入り込み、自殺しようとした理由を探る
すると・・・・。
愛する人への思慕を断つことが出来ず悩み
苦しむ男の姿があった。
この新作短編、なんと途中で終わってる!
続きは、最新作「死神と天使の円舞曲」で
とあった。
あ~またしてもやられた。新作買わないと!
「黒猫と薔薇の折り紙」知念実希人

どの作品も面白すぎてイッキ読み。
こんな豪華なアンソロジー集、読まないと損しますよ~。

『Jミステリー2022SPRING』
著者:東野圭吾/今村昌弘/芦沢央/青柳碧人/織守きょうや/知念実希人
出版社:光文社(文庫)
価格:1,320円 (本体1,200円+税)

強烈キャラ炸裂!女性弁護士の活躍「元彼の遺言状」

2020年第19回「このミステリーがすごい大賞」受賞作
新川帆立さんの「元彼の遺言状」(宝島社文庫)読了。
発売当時から話題になっていました。
その時は読むタイミングを逸してしまい・・・。
今回のドラマ化のタイミングで読みました。

すでにドラマも視ていましたので、
脳内で剣持麗子は綾瀬はるかさん・・・。
ヒロインのイメージに凄くはまっている。
さすがです。

お金がすべてと言い切る剣持麗子は、
大手企業のクライアントを多く担当する弁護士。
クライアントの利益を最優先するために
多少強引な手を使うことも・・・・。
ところがそれが裏目に出てしまい、彼女が勤務する
ローファームからボーナスの減給を言い渡される。
納得できない麗子は啖呵をきって会社を出て行った。

怒りが収まらない麗子。大学時代の元彼・栄治に
連絡をとった。ところがその電話で栄治が亡くなった
ことを知る。あまりにも突然のことで麗子は言葉を失う。

その後、栄治の友人だと言いう男・篠田から
栄治の遺産のことで相談にのって欲しいと
依頼される。

栄治は、大手製薬会社の御曹司。次男だったが、
会社を継いでいたので、莫大な遺産が遺った。
しかし、栄治は奇妙な遺言を残していた。
その遺言のせいで、一族が困惑しているらしい。

「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」
この遺言状に導かれ、麗子は一族が開く
「犯人選考会」に篠田の代理人として参加することに。

栄治の遺産を詳しく調べると、なんと数百億円も
遺産があることが発覚!

守銭奴・麗子は、その遺産の分け前をゲットするために、
依頼人を犯人に仕立てあげようと、あの手この手を使い、
さらに口八丁手八丁で一族にアピールした。
そして、手応えを得る・・・。

ところが、その遺言状が保管されている金庫が
盗まれ、さらに栄治の遺言状を管理していた
顧問弁護士が何者かによって殺害される。

「僕の全財産は僕を殺した犯人に譲る」
という斬新な設定に驚愕、困惑・・・?
被害者は殺されるって知ってるの?
と読んでる途中でモヤモヤと・・・・

しかし、物語が進むにつれ、きちんと
ミステリーの根幹である「フーダニット」、
に流れてゆくところ、面白い。
そして、何よりこの強烈なヒロインの活躍に
魅せられ、グイグイと読ませられた。

途中で麗子がクライアントから首を言い渡され、
ショックを受けるところ、妙に納得。
必要とされるから、仕事のやりがいあるので、
必要ないと言われ落ち込む麗子に共感。

ミステリーの形で、女性のお仕事に対する
気持ちもしっかり描かれ、とても面白かった。

ドラマも面白いし、続きが読みたくなった。

『元彼の遺言状』
著者:新川帆立
出版社:宝島社(文庫)
価格:¥750(¥682+税)

爽やかすぎる、胸アツ!青春ミステリー!「図書室のはこぶね」

名取佐和子さんの「図書室のはこぶね」
実業之日本社読了。初読みの作家さん。

高校生活を通し一番盛り上がる、「体育祭」。
その高校では、名物ダンスがあった。
名曲「サタデーナイト」でクラスごとに特色を
出して踊る、「土ダン」だ。
長年続くこの「土ダン」のルールにに異議を
唱える生徒が現れ・・・・。

女子バレー部のエース・百瀬花音(ももせかのん)は、
高校3年生。
高校最後の試合を前に足に怪我を負い、出場出来なかった。
そして、その怪我の影響で高校最後の体育祭も
競技参加できず、暇を持て余していた。

そんな時、親友の紗千から図書委員の仕事を頼まれた。
紗千は、間近に迫った体育祭の準備が忙しく、
図書委員の活動が出来ず、花音に声をかけたのだ。

本とはいっさい無縁の生活をしていた花音。
図書室に行くと、図書委員の俵朔太郎(たわらさくたろう)
がいた。

朔太郎は、妙な距離感で花音に話しかけてくる。
花音はとまどいながらも、朔太郎との距離を縮めてゆく。

学校で一番盛り上がりを見せる「体育祭」はもう間近。
図書館は誰もいないが、きちんと仕事はある。
朔太郎から仕事を教えてもらい本の返却作業をしていた花音は、
ケストナーの「飛ぶ教室」がカウンターに置きっぱなしに
なっていたのを見つける。
蔵書数は1冊なのに、手元には2冊ある。

しかもこの1冊は10年前に貸し出されたもの。
10年後に返却されたのはどういうこと?

朔太郎から読んでみたら?と貸し出され、
花音は久しぶりに「飛ぶ教室」を読んでみた。

次の日、朔太郎と二人、図書館業務をこなしていたら、
まるで女の子みたいな男の子が半裸で図書館に
駆け込んできた。1年生のようでクラスメートから
追われているようだ。二人は彼を匿い、事情を
聞いた。
この1年生のクラスは、今度の土ダンで野球場を
テーマに踊るらしい。彼は客席を回るビールの
売り子で女装をする役になった。花音と
朔太郎は「ピッタリじゃん」と心の中で
思ったけど言わなかった。
しかし、彼は絶対に女装をしたくないと言った。
何か事情があるらしい・・・・。

花音は「飛ぶ教室」に挟まれていた
あるメモを見つけた。
そこには「方舟はいらない、大きな腕白ども
土ダンをぶっつぶせ!」と書かれていた。

「土ダン」をぶっつぶせ・・・?不穏。
一体誰がなぜこんなメモを?

謎めいたメッセージに衝撃を受けた
花音はこの謎をどうしても解明したくなった。
そして朔太郎や1年生の男の子も巻き込んで
謎解明に奔走する!

図書室で繰り広げられる、学園小説だと思ったら
とても爽やかなミステリー。

体育祭まえの1週間の物語の中に、緻密に
伏線が配置され、それが徐々に回収されると、
10年前の悲しい過去が明らかにあり、泣ける・・・。

そして、すべの謎があきらかになるクライマックスは、
ある一つの思いを実らせるために、誰もが一つになる!
感動的なラストだ!

仲間の固い絆、友情以上恋愛未満の切ない心、
素敵な大人たち、ストーリーの面白さに加え、
魅力的な登場人物たち。
しみじみと味わって読んだ。とても面白かった。

『図書室のはこぶね』
著者:名取佐和子
出版社:実業之日本社
価格:¥1,760(¥1,600+税)

はぐれ者の男が一途に生きる道を究める!「底惚れ」

時代小説もわりとよく読んでると思うけれど、
この作品は、詳しく紹介されるまで知らなかった。
青山文平さんの「底惚れ」(徳間書店)。

江戸時代版ハードボイルドと帯に謳われている
通り、主人公の男が終始江戸っ子口調で語るので、
それがとても粋に感じられ、この作品に
ぴたりとはまりとても良かった。

一季奉公を重ねて四十も過ぎ、自分を持て余し
はぐれ者だった男が、殿さまのお手付きになり
子供を産んだ後、里に帰される女・芳に惚れた。
芳は二度と戻れぬ宿下がりを命じられ、その
同行者として男が選ばれたのだ。

殿様は芳にひどいことをしたもんだと憤った男。

芳に奉公先を見返す話を持ちかけたが、
男を刺して逃走した。

男は思った。芳に殺されるなら本望だ・・・。
でも、芳は本気で殿さまのことが好きだったんだ。
俺みたいな男を刺して、俺が死んだら芳は
人殺しになっちまう。それだけはダメだ・・・。
死にかけた男はそんなことを思った。
幸い、男は一命をとりとめた。

何をしても中途半端な生き方しかできなかった男が
惚れた女に刺されたおかげで生きる目標を持った。
そして、芳に人殺しでない事を伝えるため、
芳を探し出すことを決心する。
そのために、男はとんでもない策を打ち出す!

その策を練るために男は様々な人物たちと出会う。
彼らは、男の覚悟に惚れ男のために誠意をつくす。

最底辺を懸命に生きる江戸の庶民の暮らしや
江戸情緒がたっぷりと描かれ、その中で
愛の力でよみがえった男の一途な生き方が映える!

物語全体がかっこいい!

『底惚れ』
著者青山文平
出版社:徳間書店
価格:¥1,760(¥1,600+税)

奇想天外な誘拐!?「午前0時の身代金」

第8回新潮ミステリー大賞受賞作、京橋史織さんの
「午前0時の身代金」を読みました。

古今東西、ミステリー小説に登場する
「誘拐事件」。犯人の莫大な身代金要求に
被害者・警察は頭を抱える。しかし身代金
受け渡しの時が犯人確保のチャンス!
ところが、犯人に翻弄され、犯人確保に
失敗する・・・という設定が多かったように思う。

今作「午前0時の身代金」は、誘拐犯から犯行宣言と
身代金一〇億円をクラウドファンディングで日本国民
から募集するという前代未聞の荒業が見事!

新人弁護士の小柳は、上司の国際派の企業弁護士・
美里千春から、詐欺事件の相談に来る本條菜子の
力になってほしいと頼まれる。
現れた菜子は、事件に巻き込まれたのではなく
自分自身が詐欺を働いたというのだ。

友人からちょっと頼まれた仕事。それは受け子の
バイトだった。菜子は友人の彼氏である、
詐欺リーダーの男の罠にまんまとはまり、
犯罪に引きずり込まれてしまった。
それを止めようとした菜子の友人は男に
殺されてしまう。

菜子は友人の仇をとるために、大掛かりな取引の
妨害をしようとするが失敗。逆に男たちに
追われる羽目になってしまう。

それを助けたのが、美里だった。
話を聞き、菜子を送る道々、菜子が行方不明に
なってしまった。

翌朝、美里のクライアント、IT企業サイバー
アンドインフィニティ社に誘拐犯からの犯行宣言と
身代金10億円をクラウドファンディングで日本国民
から募集しろという脅迫メールが届く・・・。

特殊詐欺事件から端を発した誘拐事件。警察
マスコミを翻弄する劇場型犯罪。大手IT企業を
襲った奇想天外な身代金要求!
どんでん返しに次ぐどんでん返し。
そして、想像を絶する真相に驚愕する。

群を抜くリーダビリティと時代の最先端をゆく斬新な設定。
最高に面白い、企業サスペンスミステリー。

『午前0時の身代金』
著者:京橋史織
出版社:光文社
価格:¥1,650(本体1,500¥+税)

衝撃の面白さ!「幸村を討て」

「塞王の盾」で直木賞を受賞された今村翔吾
さんの受賞後第1作「幸村を討て」(中央公論新社)
を読みました。

大坂夏の陣・冬の陣で活躍した、真田幸村。
大坂方は、数少ない豊臣恩顧の武将たちや
浪人の集まりで、徳川方を迎え討つ。
烏合の衆と侮っていた徳川方は、なぜか
苦戦を強いられることになった・・・。

徳川家康の宿敵・真田昌幸。家康は、
若い頃から昌幸が苦手だっった。
昌幸が死んだと聞き、この戦は勝てると
踏んだ家康だったっが、大坂城の南に
築かれた城、真田丸の戦い方に
昌幸の影を感じ戦慄する・・・・!

織田信長の弟、織田有楽斎は、この戦で
総大将となったが、覚悟を決められず
悩む日々だった。なぜならば彼は徳川方の
スパイだったからだ。兄・信長を偲ぶ有楽斎。
織田信長の意外な優しさが伝わってくる。

さらに、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永、
南条元忠らの思惑が交錯する大坂の夏・冬の陣。
七人の男たちが、口々に叫んだ――幸村を討て!
彼らには、討たなければならないそれぞれの理由があった。

真田正幸、真田信之父子は、多くの武将たちに
一目置かれる存在だったが、真田信繁(大坂城入りで
名を幸村と改める)は、徳川家康ら主だった武将からは
軽んじられていた。だが、大坂夏・冬の陣で
徳川方は幸村の知略を尽くした戦に翻弄されることとなる。

大坂入りした武将たちや浪人らは、豊臣方に勝ち目は
ないと思っていた。
名を残したい、武士としての誇りを胸に戦場で
散りたいと覚悟を決めたもの、それでも生きたいと
望む者たちの戦。

敵も味方も翻弄し続けた、真田の戦とは
どのようなものだったのか?

最終章「真田の戦」は徳川家康&本多正信VS
真田信之の構図。
大広間での彼らの息詰まる攻防戦は、ひりひり
するような圧倒的な緊張感が漂っていて、
読み手も息が詰まってしまう!

今までの真田幸村・信之像を覆す!
面白すぎる、異色の戦国連作短編ミステリー。

『幸村を討て』
著者:今村翔吾
出版社:中央公論新社
価格:¥2,200(¥2000+税)

心震える展開!『陽だまりに至る病』

「希望が死んだ夜に」「あの子の殺人計画」で
子どもの貧困や虐待を描いてきた、天祢涼さん。
最新刊「陽だまりに至る病」はコロナ禍、貧困、
ネグレクトを背景に追いつめられる少女たちの
姿を描く、またしても切なさが心をえぐる作品。

新型コロナウイルスの流行による、
緊急事態宣言のなか、小学五年生の
咲陽は、両親から、
「困っている人がいたらなにかしてあげないと」
と言われていた。

日ごろからネットでニュースをチェック
している咲陽は、町田のホテルで起きた
女性殺人事件を気にしていた。
その目撃者が現れたらしいとのニュースが
入っていた。

咲陽は、クラス中で浮いた存在だった
同級生の小夜子が「父親が仕事で帰ってこない」
と聞き、心配して家に連れて帰ってしまう。

ところが、コロナ感染を心配する母親に
小夜子を連れて帰ったことを言い出せない。
仕方なく自分の部屋に匿うことに・・・・。

翌日、小夜子を探しているという刑事が
咲陽の家を訪ねてくる。
咲陽はどぎまぎしながら警察の質問に答えるが・・・。

咲陽は、町田の事件の件で小夜子と話をしたとき、
小夜子が思わずつぶやいた言葉から、あの殺人
事件の犯人は、小夜子の父親でではないかと
疑いを持つ。

たくさんの大きな秘密を抱えてしまった咲陽。
小夜子への思い、殺人事件の犯人、両親に
嘘をついているという罪悪感、さらに父親の
経営するレストランがコロナ禍で営業危機に
なり、貧乏になってしまうという恐怖感・・・。

仲田刑事は、そんな咲陽を心配し、心を
寄せる・・・。

町田女性殺人事件の捜査過程と咲陽と小夜子の
交流の過程が同時並行で交互に描かれる。
その二つが交差したとき、事件は意外な終結を見せる。

それまでお互いに気を使って本音を言えなかった
咲陽と小夜子。二人の気持ちをぶつけあうクライマックスは、
涙腺崩壊・・・。

子どもたちの思いに心が震える、社会派ミステリー第3弾!

『陽だまりに至る病』
著者:天祢涼
出版社:文藝春秋
価格:¥1,870(¥1,700+税)

幻惑のアンソロジー集「惑 まどう」

「迷」に続き「惑」をテーマにした
短編小説集。
「惑」は「迷」よりさらに読者を
惑わせる短編が多くワクワクする!

子どもに絵本の良き聞かせをしていた男性。
絵本を読みながら、過去の出来事が気になりだす。
それは同僚が致命的なミスを犯した事件だった・・・。
気になりだしたことを調べてゆくと、
意外な真相にたどり着く。
「かもしれない」大崎梢

誰にも言えない悩みを抱えた僕は、杖をついて
歩く少女と出会った。その少女との
出会いが、僕の人生を変えてゆく・・・。
切ないまでの片想い。涙腺崩壊のラスト。
「砂糖壺は空っぽ」加納朋子

宇宙人からの相談事を持ち掛けられたと
言う小学3年生の男の子。中学生の僕は
心配になって一緒に行動することに・・・。
そうしたら、とんでもない事件に
巻き込まれた・・・。とんでも事件は、
甘酸っぱい恋の予感に・・・。
「惑星Xからの侵略」松尾由美

自らを名探偵と名乗る、多岐川深青の
探偵人生はある男の出現によって狂わされる。
それは、カスパロフとの契約。
多岐川はどんな事件に遭遇するのか?
名探偵としての名声が続くのか?
短いストーリーの中に謎が盛りだくさん!
「迷探偵誕生」法月綸太郎

童話や、昔話に新たな解釈を加え
変形ミステリに。「ヘンゼルとグレーテル」
「座敷童子」「マヨイガ」をベースに
不気味なサスペンスミステリに!
それぞれが独特の世界観でとても面白い!
「ヘンゼルと魔女」「赤い椀」「喫茶マヨイガ」光原百合

90歳を過ぎ、死の床にあった男の前に
死神が現れる。そして、死ぬ前に願い事を
叶えるという。男が願ったこととは・・・。
このラストは泣ける!
「最後の望み」矢崎存美

姉を慕う妹、異母妹を溺愛する姉・・・。
一見、とても微笑ましい関係に見えるが、
その関係性がいっきに崩れる衝撃展開!
思わず「うわ~ッ」と感じた。
「太陽と月が星になる」永嶋恵美

火事のニュースで夫・竜崎は早速
出かけて行った。
妻の冴子は、そのニュースの中の
ある一言が気になった。
何が気になったのか?自分でも
はっきりつかめないが、とても重要なことだ。
警察官の夫に事件のことで口出しするのは
ご法度だと思っているが・・・。
難事件解決に一役買った妻の「内助の功」
を描いた逸品!
「内助」今野敏

作家さんそれぞれの持ち味が生かされた
作品の数々に酔いしれる。

『アミの会(仮)惑 まどう』
著者:大崎梢/加納朋子/今野敏/永嶋恵美/法月綸太郎/松尾由美/光原百合/矢崎存美
出版社:実業之日本社(文庫)
価格:¥836(本体¥760+税)

著者の多彩な物語を堪能できる短編集「スモールワールズ」

初読みの作家さん。一穂ミチさんの
「スモールワールズ」読了。
著者の魅力が満載の短編集。
本屋大賞ノミネート作品。

夫婦円満を装う主婦と家庭に問題を抱えた少年
との触れあい。
「ネオンテトラ」

「秘密」を抱えて出戻ってきた、「魔王」と
異名がつく姉と弟との絆。
「魔王の帰還」

初孫の誕生に喜ぶ、母と娘。その夫。
しかし、悲劇が彼らを襲う。
「ピクニック」

兄を殺された女性とその兄を殺した加害者
の男性との手紙の交換で芽生えた絆。
「花うた」

素直に向き合うことが出来なかった父と子の
行く末は?
「愛を適量」

大切なことを言えないまま別れてしまった
先輩と後輩。
「式日」

6編の収録作品の中で特に心に残った作品。

「魔王の帰還」。女性とは思えない巨漢の
姉をもった弟。しかし姉はとても優しい
心の持ち主だった。なぜ離婚しなければ
ならないのか?そのあまりにも優しい真実に
思わず涙腺が崩壊した。

「ピクニック」。第74回日本推理作家
協会賞短編部門候補作。
祖母が面倒を見ていた中での子どもの突然死。
悲劇に襲われた家族の慟哭・・・
しかし!?その真実に背筋がさ~っと冷たく
なった。超サスペンスフルな展開に肝が冷えた。

「花うた」。被害者遺族と加害者。決して
相いれない関係の二人が手紙を交換する
ことによって心が繋がってゆく。
周りから見れば許されない関係だとしても
誰かを大切に思う心は変わらない。
それがひしひしと伝わってきた。

「愛を適量」。教師として日々やりすごすだけの
中年男性。しかし、昔別れた娘と突如
一緒に暮らすことになった。娘の秘密と
真っ向から向き合う。二人の新たな旅立ちに
明るく前向きになる気持ちをもらった。

胸が熱くなる、心に沁みるストーリーも
あれば、ゾッっとするサスペンス作品も
ある。多彩な一穂ミチワールドが堪能できる
傑作短編集。

『スモールワールズ』
著者:一穂ミチ
出版社:講談社
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)