怒涛の展開に圧倒される!「凶血 公安調査官 霧坂美紅」

島根県在住のミステリー作家・吉田恭教さんの
新作が発売されました!
タイトルは、「凶血 公安調査官 霧坂美紅」。
角川ホラー文庫です。
タイトルからしてホラーな展開が待っているのか?
ワクワクします!!

旧日本軍がドイツから送られてきた、狂犬病ウイルス
の変異体を使って細菌兵器を作り、アメリカを
一網打尽にする・・・

しかし、その計画は遅すぎた。
広島と長崎に原子爆弾が投下され、
日本は終戦を迎えた。

細菌兵器を作っていた科学者たちは、そのウイルスを
ある場所に隠し、集団自決をはかった。

それから65年後、連続老女殺人事件の犯人が逮捕された。
しかし、その犯人が戦争中に死亡した被害者の
夫の遺書を持っていたことで事態は急転。

その手紙こそ、旧日本軍が開発した恐るべき
細菌兵器の情報が書かれてあった。

公安調査庁調査官・霧坂は、その現場に駆り出され、
隠された細菌兵器の情報収集に奔走する。

一方、警視庁の女性刑事・中島は異様な死体に
戸惑っていた・・・・。

暗躍するカルト集団「シャンバラ」。
接種すると体に驚くべき変化が起こる
ウイルス「V-BLUT」。
そして、謎の白い男・・・。

多彩な物語と医学的知識を盛り込んだストーリー
展開は、スピード感があってグイグイ読ませる!

ウイルス兵器と謎の変死体。この二つが繋がった
時、恐ろしい真実は明らかになる。
そして、前代未聞のラストに仰天する。

毎回、吉田さんの作品には驚かされます。
いったいどこからこんなにたくさんの
アイディアを思いつくのか?
本当に面白くてあっという間に読んでしまいました。

「警視庁特殺 使途の刻印」もですが、
この作品のシリーズ化も期待しています!

今作品は、石見銀山や大森町も登場し
地元の読者を楽しませてくれます!

『凶血 公安調査官霧坂美紅』
著者:吉田恭教
出版社:KADOKAWA(ホラー文庫)
価格:¥720(税別)

子どもたちの苦しみが胸に迫る!「あの子の殺人計画」

天祢涼さんの「希望が死んだ夜に」では
貧困にあえぐ少女たちの悲劇を描き、
あまりにも切ない展開に、思わず泣けました。
事件の捜査とともに少女たちの心に
優しく寄り添った仲田刑事が印象的でした。

その仲田刑事が再び登場する、
最新刊は、「あの子の殺人計画」。
児童虐待というセンシティブなテーマに
真正面から斬り込んだ意欲作。

小学5年生の椎名きさらは、母子家庭で育つ。
母親は一生懸命働いているが、貧困からは
抜け出せない。しかも、「水責めの刑」で
厳しく躾られていた。
厳しいけれど、それは自分が悪いことをしたから。
ママは私のために厳しくしてくれている・・・。
母への思慕から、きさらはそう思い込んでいた。

ところがある時、保健の遊馬先生や、
転校生の翔太らに指摘され、自分が虐待
されているのではないかと気づき始める…。

やがて、母への思いは恨みへと変わり、
きさらは、母親の殺人計画を練る….。

一方、川崎駅付近の路上で、大手風俗店の
オーナー・遠山が遺体で見つかった。
鋭利な刃物で刺し殺されていた。
神奈川県警捜査一課の真壁刑事は所轄の
捜査員、宝生とともに聞き込み続けると、
かつて、遠山の店で働いていた、椎名綺羅
という女性が捜査線上に浮上する。

真壁は椎名綺羅に疑念を抱くが、事件当夜は
娘のきさらと自宅にいたというアリバイがあった。

そこで真壁は、以前女子中学生の事件で
捜査に協力してくれた、生活安全課の
女性捜査員・仲田蛍の力を借りることに。
仲田は生活安全課に所属しながら、数々の
事件を解決に導いた、優秀な刑事だ。
椎名きさらは、仲田に心を開き、
少しずつ母との関係性を語るのだった・・・。

「希望が死んだ夜に」に続き、今作品も
子どもたちの目線で描かれ、虐待という
悲劇的な展開に言葉をなくす。
そんな物語のなかで、仲田刑事が子供たちに
寄せる優しさに心が癒される。

さらに、一瞬にしてそれまでの世界が反転する
神業的なミステリー手法に息をのむ!

「子どもの貧困」「こどもの虐待」を
テーマに、現代日本の不条理を抉る!
社会派+本格ミステリが融合した、
胸に迫るミステリー。

『あの子の殺人計画』
著者:天祢涼
出版社:文藝春秋
価格:¥1,650(税別)

スリリングな展開!特捜本部VS.特捜検事「焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕」

今野敏先生の人気警察小説シリーズ
「警視庁強行犯係・樋口顕」シリーズの最新作
「焦眉」を読みました。

このシリーズは、「隠蔽捜査」(新潮社)
「東京湾臨海署・安積班」(角川春樹事務所)
「警視庁捜査一課・碓氷弘一」(中央公論新社)
シリーズと並ぶ、今野作品、警察小説シリーズ
ベスト4の中の1作です。

このシリーズの主人公・樋口顕は
「熱い情熱を秘めた静かなる男」
と言ったイメージで、はまさきは
安積警部補の次に好きな人物です。

今作品は、東京地検特捜部の検事たちの
暴走を食い止められるのか!という物語。

捜査二課の氏家から衆院選の
選挙係になったと報告を受けた樋口。
そのことでナーバスになった氏家の様子が
気になり、二課に寄った樋口だったが、
いきなり東京地検特捜部が来ていると
知らされる。

衆院選が終わった頃、世田谷区の住宅街で
殺人事件が発生した。
被害者はファンドを経営する中年男性だった。

警視庁は直ちに特捜本部を設置。
ところがその捜査本部に地検特捜部の
灰谷と荒木が現れる。

彼らは、今回の衆院選で与党のベテラン議員を
退け当選した野党の衆議院議員・秋葉康一を
政治資金規正法違反で内偵中だった。
殺された男性と秋葉は大学時代親しかったらしい。

さらに殺害現場付近の防犯カメラには
秋葉の秘書の姿がうつっており、灰谷らは
秋葉が殺人事件に関与しているのではないかと
疑っていたのだ。

捜査本部内では、殺人事件の特捜本部に
部外者がいるのはおかしいし、彼らの
やり方に憤りを感じていた。

そして、灰谷らは秘書の身柄を拘束、樋口は
証拠不十分を主張したが、独断で逮捕に
踏み切ってしまう!

検事による不当逮捕。こんなことが許されて良いのか?
国家権力を武器に、民間人を恐怖のドン底に陥れる。
送検されれば、有罪率は99.9%なのだ。

その恐ろしさが物凄いリアリティをもって
描かれ、ただただ怖い。
ほんの些細な状況証拠だけで、犯罪を作り出す。
冤罪が生まれる過程を読んでいるようだった。

樋口のように当たり前に考えればそれはない!
と言い切る刑事がいなければどうなるだろう。

間違った方向に向かうとき、きちんと
正しいことが言える。
それが大切なんだということを痛感した
作品だ。

いつもながら、読後の爽快感がたまらない!

『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』
著者:今野敏
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

読み始めたら止まらない!「冷たい檻」

伊岡瞬さんの「代償」「悪寒」「痣」に続き
文庫新刊「冷たい檻」を読みました。

冒頭からのスリリングな展開に心を
鷲掴みにされました。

17年前に息子を誘拐された樋口は、その後
妻と離婚。警察も退職し調査官として働く。

北陸地方の村の駐在所から警官が失踪した。
県警本部の依頼で、駐在所の調査に入った
樋口は、後任の駐在・島崎巡査部長ともに
前任の駐在の失踪の謎を追う。

その過程で、村では農作業に使う器具が何者かに
盗まれるという盗難事件が起こっていることが発覚。

次々と耳に入るきな臭いに情報に、
樋口はこの村には何かあると嗅ぎ取る。

一方、村に存在する大型複合医療施設の
介護付き老人ホームに入所していた70歳台の
老人が海に落ちて亡くなる事件が発生していた。
施設では様々な憶測が飛んでいた

樋口は、失踪した駐在の行方を調査する
かたわら、大型医療施設についての裏情報も
キャッチ。
数々の事件がこの施設に関係していること
に気づく。

しかし、不可解な殺人事件が起こってしまう。
それは凄惨極まりないものだった!

樋口・島崎の視点、施設の入所者たちの視点
また、施設を誘致した者たちの視点、
多数の人物の視点で描かれた物語。
数々の事件がどう繋がってゆくのか?
どんな風に発展してゆくのか?
先へ先へと引きずられるように読みすすめてしまう。

すべての謎が解き明かされたクライマックスは
圧巻!としか言いようがない。

卓越したリーダビリティで読ませる、サスペンスの傑作。
読みだしたら止まらない!夜に読んだら徹夜覚悟で!!

『冷たい檻』
著者:伊岡瞬
出版社:中央公論新社
価格:¥880(税別)

島田荘司先生の「火刑都市 改訂完全版」が素晴らしい!

島田荘司さんの文庫新刊「火刑都市 改訂完全版」
を読みました。
まだ読んでいなかったので、読めてとても嬉しい!

私の大好きな、名探偵・御手洗潔は登場しませんが、
渋い刑事さんが東京で起こる連続放火事件の
謎を解いていくミステリー。

昭和57年の東京が舞台。
四谷のビルで放火と思われる事件が発生し、
その地下で男性の焼死体が発見された。
どうも、警備員らしい。
さらに、放火事件は密室で起こったようだった。

事件性があるかもしれないということで
捜査一課殺人班の中村刑事が現場に向かった。
若い警備員が、自分の詰めている場所で火が回るまで
逃げもせず、消防にも連絡せずおとなしく焼け死ぬ
なんてことがあるのか?
その疑問から、中村刑事は他殺の可能性もあるとして、
彼の職場、アパート周辺の聞き込みを丁寧に行うと、
ある事実が発覚する。

ギャンブルもやらない、酒も飲まない、人付き合い
も苦手。ただただ真面目に仕事をする男。
そんな男に、恋人がいたというのだ。
そして一緒に暮らしていたらしい。

中村は早速彼のアパートの調査を開始。
その恋人はいるのか?彼の死を知っているのか?
しかし、残念ながら恋人はアパートにいなかった。
しかも部屋はきれいに片付けられている。
まるで、すべてを清算したかのような状況だ。

中村刑事は気づく。この女が男を殺したのだ・・・と
しかし、いったいどうやって?中村は推理する。
あくまでも推理だ。証拠はない。
そして、中村は女の行方を追うが・・・。

そんなさなか、赤坂のホテルが放火された!
そして現場には「東亰」という不可解な文字が
残されていた。

焼け死んだ男、彼を殺したであろう女。そして
連続放火事件。これらに共通するものは何か?
連続放火事件とどういう関係があるのか?
絡まった糸はほどけぬまま、クライマックスヘと進む。

中村刑事が執念でたどり着いた真実は、
想像を絶する結末を迎える!!

都市成立の謎を背景に、大都会の孤独、
そしてビルという冷たいジャングル
の中で生きる人間たちの悲哀が浮かび上がってくる。
読んでいると、心が冷えてゆくように感じた。

都市論を巧に織り込みながら描かれた、
あまりにも切なく悲しい社会派ミステリー。

『火刑都市 改訂完全版』
著者:島田荘司
出版社:講談社
価格:¥840(税別)

驚愕のデビュー作!「アルファベット・パズラーズ」

ドラマ化された「アリバイ崩し承ります」の著者
大山誠一郎さんのデビュー作、
「アルファベット・パズラーズ」を読みました。
短編ミステリー4作品。
短編なのに長編のような読みごたえ!
面白すぎる!

マンション「AHM」の住人、警視庁捜査一課
の刑事・後藤慎司、翻訳家の奈良井明世、
精神科医の竹野理恵たちは、マンションの
オーナーである峰原卓の部屋に集い、紅茶を
飲みながら、推理合戦に興じていた。

奈良井の知り合いに富豪の女性がいるが、
最近になって、家政婦に毒殺されると思い込み、
丁寧に淹れていた紅茶を缶入りの紅茶に
変えてしまったという。
精神科医の竹野は、被毒妄想症ではないかと疑う。
ある日その女性に招待され奈良井と竹野は
彼女の家に出かけた。そこには女性と家政婦の
他、親族も招待されていた。
そして、事件は起こる。
件の女性が毒殺されたのだ…。『Pの妄想』

警視庁捜査一課の刑事・後藤は、美術館で
学芸員の男性が殺された現場にきていた。
その現場は最新の指紋照合システムが導入
され、指紋登録者以外は出入りができない。
後藤たちは、登録者の入退出記録を確認するが….。
『Fの告発』

クルーズ船の旅を満喫していた、奈良井と竹野。
そこである化粧品会社の女性社長と出会うが、
その女性が殺害される。その現場には奇妙な
ダイイングメッセージが残されていた。
『Cの遺言』

ある男性の手記に残された、あまりにも悲惨な誘拐事件。
その誘拐事件は未解決に終わっていた。
その手記はWEB上に残され、真相解明を
望みつつ男性は病で亡くなる。
それから数年後、手記を読んだ奈良井たちは、
早速推理合戦をはじめ、本格調査に乗り出す…。
『Yの誘拐』

『Pの妄想』は缶入り紅茶に変えた理由といつ、
いかなる手法で毒殺したのか?
意外過ぎる理由と眼からうろこの毒殺トリックに
驚嘆!

『Fの告発』は途中まで読んでもしかして
この密室トリックはこの手かなと推理したが、
まったく違っていた。緻密に仕組まれている!!
凄過ぎる~。

『Cの遺言』は、ダイイングメッセージの謎に
迫っているけれど、なかなか真相にたどり着けない。
もどかしい。究極のミスリードか?

『Yの誘拐』は、誘拐事件自体が悲劇的!
奈良井たちは、様々な推理を展開するが
どれも納得できない。
どんでん返しに次ぐどんでん返しに
最後は唖然!

緻密に練り上げられた謎とトリック。
それを読んでいるときのワクワク感。
そして鮮やかに謎を解く名推理に脱帽しました。

『アルファベット・パズラーズ』
著者:大山誠一郎
出版社:東京創元社
価格:¥820(税別)

天久鷹央シリーズ長編第1弾「スフィアの死天使」が面白い!

天久鷹央シリーズの長編ものです。
短編も面白いのですが、長編好きにはたまりません!
読み始めたらすっかりはまってしまいました。

外科医を辞め、内科医として新たな
道に進もうと、天医会総合病院に勤務
することになった、小鳥遊(たかなし)優は、
そこで、運命的な出会い果たす。

小鳥遊が配属されたのは、統括診断部。
その部長は天久鷹央。
小柄で、見た目は女子高生にしか
見えない。しかも初対面なのに上から目線で
人の痛いところをズバズバ突いてくる。
何なんだこの人は・・・?
小鳥遊は呆れて言葉ができない。

空気が読めず、人とコミュニケーション
をとることが苦手な天久鷹央は、しかし
日本最高峰の頭脳を持つ天才女医だった。

そんなこんなで鷹央のことを知った
小鳥遊は早速統括診断部での仕事が
始まった。

ある日、宇宙人による洗脳を訴える
患者が現れ、病院内で飛び降り自殺を図った。

さらに、救急で運びこまれた患者が、
またしても宇宙人に命令されたと言って
医師を殺害してしまった!

院内で起こる不可解な連続事件。
調べてみると、殺された医師の娘が
宇宙人信仰思想の「大宙神光教」に
入信し、親子の間でトラブルがあった
ことが判明する。

鷹央は殺された医師の事件究明のため、
小鳥遊と二人「大宙神光教」に
潜入するが・・・。

鷹央の突拍子もない行動に振り回される小鳥遊。
しかし、なぜか鷹央を放ってはおけない。
直属の上司だし・・・。
この二人の掛け合いに多分はまってしまうのかな?

物語の最初の方で、鷹央が謎の痛みに
苦しむ女性の話を聞いただけで病名をスパッと当て
適切な処置を進めた場面は、さすがに
現役医師にしか描けないな~と眼からうろこ。
こういうところがこのシリーズの際立った面白さ。

長編ということで、様々な仕掛けを施してあり
新興宗教の施設に潜入するシーンなどドキドキ、ワクワク。
そして、真相解明までのどんでん返し。
え~そういうことだったの~。と納得したところで
またもやのどんでん返しにやられました。

これからの鷹央と小鳥遊の活躍に期待!
次は「幻影の手術室」を読みます!!

『スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ』』
著者:知念実希人
出版社:新潮社(新潮文庫nex)
価格:¥670(税別)

シリーズ第7作「特捜部Q 自撮りする女たち」の展開に唖然!

デンマークの大人気警察小説「特捜部Q」シリーズ。
第7作目「自撮りする女たち」を読んだ。
今までの作品は、未解決事件を中心に物語は
進んでいったが、今作品は現事件と未解決の
事件の捜査が同時に進んでゆく。

コペンハーゲン警察のカール・マーク率いる
「特捜部Q」は、未解決事件を専門に扱う部署。
これまでにかなりの数を解決してきた。

ところが、上層部のミスで特捜部Qの成果報告
が正確に伝わっておらず、部の解体が
ささやかれていた。
さらに頼みのローセの調子が良くなく、
特捜部Qチームの士気はダダ下がり。

そんな時、元殺人課課長から連絡が入った。
最近起きた老女撲殺事件が、未解決の女性教師
殺人事件と酷似しているので、再捜査をして
欲しいとの依頼だった。
カールらは渋々捜査を始める。

一方殺人課では、失業中の若い女性を狙った
連続ひき逃げ事件の捜査で忙殺されていた。

カールたちは、その隙に未解決の女性教師
殺人事件と老女撲殺事件の捜査を始めてしまう。

そんな中、新たな事件が発生する!
クラブに女性2人組の強盗が押し入り、さらに
殺人事件まで起こってしまったのだ。

次々と起こる事件は、カールたちをも巻き込み
かっていない様相を見せ始める!!!

今作品は、デンマークの社会福祉政策に焦点を
充てている。その中でも‘デメリット’の方だ。
デンマークは世界有数の福祉国家だ。
社会福祉政策の充実は大方の国民が満足している。
特に失業対策と生活保護は手厚い。
失業者に対してソーシャルワーカーが熱心に
カウンセリングを行い就労の手助けをする。

しかし、そのあまりの手厚さゆえに、就職
活動を回避し、補助金や生活保護を不正に
受給しようとするものが後を絶たないという現状。

そういう背景で起こった事件がクローズアップされている。
傲慢でわがままで自分のことしか考えない若者たち。
そんな彼らに対して職務を忠実に果たそうとする
ソーシャルワーカーのストレスはどれほどのものだろうか?
作品中に登場するソーシャルワーカーのように
間違った正義へと向かってしまうこともあるかも知れない。

さらに、今作品の注目すべき点は、
カールたちの大切な同僚・ローセの危機だ。
今作品でカールたちはどれほどローセに助けられて
いたのか?どれほど大切な友だったのか?
改めて気づかされる。

様々な事件が交差し、怒涛のような展開に翻弄されながら
カールとアサド、そしてゴードンといった仲間たちの
何気ないやり取りにホッとする。

今までないスリリングな展開にハラハラさせられる。
シリーズ屈指の読みごたえ!

次回作がまたまた楽しみです!

『特捜部Q 自撮りする女たち』
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田奈保子訳
出版社:早川書房
価格:¥2,100(税別)

「弧狼の血」シリーズ完結編『暴虎の牙』

昭和50年代の広島を舞台に、暴力団の抗争を
命を張って食い止めようとした刑事を主人公に
描いた「弧狼の血」、その続編「凶犬の眼」。
熱き男たちのドラマに心が震えた。
そのシリーズが新作「暴虎の牙」で完結する。

昭和57年、広島呉原。
愚連隊「呉寅会」を結成した沖虎彦は、
心の内に極道への憎しみをたぎらせ、
死をも恐れぬ圧倒的な暴力で、勢力を
拡大していった。

暴力団のシノギの現場を荒らしまくり
呉原の最大組織「五十子会」を激怒させていた。

広島北署二課暴力団係の刑事・大上章吾は、
ヤクザからも一目置かれる凄腕のマル暴刑事だ。
沖に彼なりのやり方で警告をするが、沖は耳を
貸そうとしない。

大上は、「五十子会」に無謀な闘いを挑む
沖の暴走を食い止めようと奔走する!

時は過ぎ平成16年、懲役刑を受けて出所した
沖がふたたび広島で動き出した。
しかし暴対法が施行されて久しく、
暴力団のシノギはままならなくなっていた。

時代に取り残されたような焦燥感を感じた
沖はまたもや暴走を始める。
そんな沖に目をつけたのは、大上の愛弟子で
東呉原署捜査二課暴力団係・日岡刑事だ。

大上・日岡二人の刑事は、最凶の愚連隊
「呉寅会」の沖の暴走を止められるのか!?

「極道がなんぼのもんじゃ!」「舐められたら終いだ!」
「広島を制覇する!」
自らを鼓舞し、すさまじいまでの暴力の世界で
生きる沖虎彦。彼がなぜそこまで極道に
憎しみを抱き、自信が広島を牛耳る!という
無謀な野望を持つにいたったのか?
沖の過去がそれを物語る。

暴力は絶対にいけない。しかしこういう風にしか
生きられない沖の姿に切ない思いを抱いてしまった。
何とか止めてほしい!とずっと思いながら読んでいた。

さらに、大上刑事の妻と娘の悲劇、
大上の魂が乗り移ったかのような日岡刑事の捜査。
物語すべてが、シリーズ完結編にふさわしい、屈指の傑作!

『暴虎の牙』
著者:柚月裕子
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,800(税別)

過酷な運命を背負う刑事を描く!『ブラッド・ロンダリング』

吉川英梨さんといえば人気の警察小説
シリーズが何作もあります。
「警視庁53教場」、「新東京水上警察」
「警部補・原麻希」「十三階の女」。
どのシリーズも面白くてはまります。
シリーズ1作目を読んでしまうと、
次から次へと読みたくなるのです。

また、シリーズでない作品は、社会的
メッセージが強いかなと感じます。
「雨に消えた向日葵」は少女誘拐事件を
通して、日本社会の病理に斬り込み、
心が揺さぶられました。

そして、最新作『ブラッド・ロンダリング』は、
過酷な運命を背負わされた人たちの悲痛な叫びが、
胸に響きます。

警視庁刑事部捜査一課に新人刑事が配属された。
彼の名前は、真弓倫太郎。父親も祖父も警察官。
しかし、彼には絶対に知られてはならない秘密があった。

その日、マンションの駐車場の車に真っ逆さまに
突き刺さった死体が発見された。
男の身元はすぐに判明。雑誌記者で、遺書が
遺されており自殺と断定される。
しかし、遺体の靴に残っていた塗料が気になった
警視庁刑事部捜査一課の二階堂汐里は
事件性があると感じた。

汐里は、なかなか心を開かない倫太郎を気遣う。
そして、グイグイと捜査に引っ張り込む。

記者の周囲を探っている内に、ある人気女優の
スキャンダルを追っていたことが判明する。
そして、女優が所属する芸能事務所では最近に
なってその女優のマネージャーが辞めたことが
わかった。
だが、そのマネージャーも自殺死体で発見される!

事件性ありと見た汐里たちは、本格的に捜査を
開始。やがて一つの集落を消滅させた凄惨な
大火事にたどり着く。

都会で起きた二つの変死事件、
かたや、奈良の限界集落で起きた自殺事件。
そして過去に起きた凄惨な火災事件。
三つの事件が繋がった時、あまりにも哀しい
真実が浮かび上がる・・・。

捜査の過程で発覚した、大火災事件。
加害者家族が背負ったあまりにも過酷な運命。
どこに行こうと必ず暴かれる。逃げ場はない。

また、不可解な行動を続ける新人刑事・真弓倫太郎。
一体彼はどんな秘密を抱えているのか?
倫太郎が語った「僕は刑事になってはいけない」
という言葉の意味は?

婚約者を殺され心に深い傷を持つ、汐里。
今だ癒えぬ哀しみと苦しみを抱えつつ、
仕事を続けている。それを周囲に悟られぬように
男っぽく振る舞うが、本当は優しさに満ちている。

そんな汐里に好意らしきものを抱く倫太郎だったが…。

ブラッド・ロンダリング──
過去を消し去り、自らの出自を新しく作りかえる血の洗浄。
そこまでしなければならないほど、この国の
加害者家族は生きられないのか?
本人には何の罪もないのに!?
その怒りが、痛みが、叫びが心にガツンと響く。

歪み切った正義に支配された今の日本。
それが、どれだけの人を傷つけているのだろうか?
そんな中でも、傷ついた人の心に寄り添う
優しさが随所に描かれている。

ラストに汐里たちの上司・柿内が、悩む倫太郎に
かけた言葉にしびれた!!
この物語の終わりにふさわしい思った。

『ブラッド・ロンダリング 警視庁捜査一課殺人犯捜査二係』
著者:吉川英梨
出版社:河出書房新社
価格:¥1,600(税別)