心が震える、長岡弘樹さんの『波形の声』

『傍聞き』『線の波紋』『教場』など、長岡さんの描くミステリーは
どれも心に深く刻まれる作品ばかり。
今まで描かれてきたミステリーや推理小説とはひと味違う作品が多いです。

波形の声

この『波形の声』は、7編の短編が収録されています。

表題の『波形の声』は、理科が得意な補助教員が、いじめられっこの
児童から、ある先生がスーパーで万引きしていたことを告げられる。
その後、その児童は何者かに襲われてしまう。児童が襲われたときに、
隣人は、児童が補助教員の名前を叫んだと証言し、補助教員は疑われてしまう。
しかし・・・・。補助教員の無実を晴らしたものとはいったいなんだったのか?
このカラクリに驚いてしまいました。この作品はトリックの使い方が上手すぎて
感動です。読んでいると、人間の底知れぬ悪意を感じて、嫌な気持ちになりますが、
この作品はあまりにも意外などんでん返しで、読後がとても良かったです。

そのほか『宿敵』は、82歳の男性の隣にかつてのライバル高校のピッチャー
だった男が引っ越してきた。ライバル心をむき出しにするが・・・。
『わけありの街』は、息子を強盗に殺され、その後の捜査の行方を
訪ねて、警察やってきた母親。元息子が住んでいた部屋を借りると言う・・・。
『暗闇の蚊』は、ペット治療修行中の息子は、近所に越してきた30代の女性に
夢中だが・・・?
『黒白の暦』は、ライバルとの昇進争いに日々囚われているキャリア女性の
勝負の行く末・・・。手帳に記された、白星と黒星。その意味が
わかると女性の怖さがひたひたと・・・・・。
『準備室』は、いじめで自殺した息子を持つ県庁職員のパワハラに怯える
村役場の職員を描く。
『ハガニアの霧』は、実業家として成功した男。家の物置から発見された
幻の絵。その直後、実業家の息子が誘拐された!?

日々、人間関係の中で起きる小さな事件。
嫉妬、怒り、憎しみなど人間の悪意に焦点をあててるけれど、
実は一番描きたいのは人の温かさ。
人間の感情をトリックに使う見事などんでん返し。
ここまで描けたら、もう職人としか言いようがない。
さらっと描いているけれど、その物語の奥深さに心震える。

『波形の声』
著者:長岡弘樹
出版社:徳間書店
価格:¥1600(税別)