心にじわ~っと響くミステリー「戦場のコックたち」

本屋大賞にノミネートされている、
ミステリー小説「戦場のコックたち」を読みました。

昨年暮れに発表された「このミステリーがすごい 国内編」で
第2位にランクイン。
さらに「週刊文春ミステリーベスト10」では第3位にランクインした、
注目の作品です。
2段組みの連作長編ですが、長さを全く感じさせない
心に沁みるミステリーでした。

戦場のコック

第二次世界大戦、ヨーロッパはナチスドイツを中心とする
枢軸国に蹂躙されていた。見かねたイギリスとフランスは
連合軍を作り枢軸国に応戦。しかしイギリスも爆撃され、
静観していたアメリカがいよいよ参戦することになる。

そんな時代、田舎の雑貨店で家族平和に暮らしていた
ティモシーは、少しでも家計を支えようと志願兵となる。
料理が得意だったティモシーは、コックという特技兵として
ノルマンディー上陸作戦で、フランスに降り立った。

G中隊のコックは、ティモシーのほかに、南米出身のディエゴ、眼鏡のエド。
ティモシーにとっては彼らが家族同然だ。
だが、死と隣合わせの日々が続く・・・・。

そんなある日、G中隊の機関銃兵・ライナスが予備のパラシュートを
集めているのを知る。
パラシュートは貴重品だ。、一体何のために・・・。
いつも寡黙で思慮深いエドが推理し始めた・・・・。

この些細な事件から、一晩で消えた600箱もの粉末卵の謎や
軍が待機所として借りた家の家主の自殺事件、ディエゴが怯えた幽霊事件の謎・・・
など戦場で起きたささやかな事件の真相を明らかにしてゆく。

戦争という非日常の中で、常に死を意識しながら、
また仲間の死に衝撃を受けながら、ティモシーたちは日常を生きている。
その過酷な日々の中でも〈日常の謎〉は存在する。
それらを連作短編という形式で紡いでゆく異色のミステリーだ。

この作品の魅力は、謎解きの面白さだけではない!
彼らが遭遇する戦闘の描写のリアルさ、
戦闘の合間の仲間たちとの温かい触れ合い。
助け合い、かばい合い、命を繋ぐ。
その場面場面に人のぬくもりのようなものが感じられ、
心にじわ~っと沁みてくるのだ。

戦争を題材にしながら、ある意味で人が死なないミステリーという
稀有な作品。

『戦場のコックたち』
著者:深緑野分
出版社:東京創元社
価格:¥1,900(税別)