文豪が描く‘超’傑作の時代サスペンス「五弁の椿」

山本周五郎の「五弁の椿」は山本作品の中でも異色中の異色作。
何度もドラマ化され、記憶に残っている。
最近では、国仲涼子主演でドラマ化された。

時代小説ブームの中、推理小説のみをピックアップして、
ミニフェア展開を思いつき選書しようとしたとき、
一番最初に思い浮かんだのが、この「五弁の椿」。
かなり前に読んだので、再読した。
やはり、強烈に面白い。

五弁の椿

ある大店の娘・おしのは、自分の身を削ってでも
家族のために店を守る父を敬愛していた。
だが、母はそんな父を顧みることはなく、
別宅に男を連れ込み、父が蓄えた金で放蕩三昧。
おしのは、それでも母はいつか父のもとへ帰って
くると信じていた。
やがて、父の胸の病がひどくなり、おしのは
母に一目父に会って欲しいと懇願する。
だが、母はおしのとの約束を違え、若い役者と
旅に出てしまった。
そして父は母にどうしても言いたいことがあると
言いつつ息を引き取ってしまう。
おしのは、父の遺体を母の住む別宅へと運ぶ。
そこでも母は若い役者と酒を飲んでいた。
母に対する激しい憎しみと、怒りがおしの
の胸を貫く!
だが、そこで母はおしのには耐えがたい
真相を語った。
おしのはその事実に茫然となり、母と相手の
男たちを自らの手で裁くことを決意する。

最愛の父を亡くしたおしのは、自らの出生の真実
を知ることで、さらに亡くなった父を愛おしく
想う。そして、父を裏切り続けた母、そして
男たちに次々と復讐をしてゆくのだ。

「この世では御法定で罰することのできない罪がある」
それが復讐なのか?
江戸時代でも現代でも愛しいものを奪われた喪失感は
耐えがたい。
おしのの想いは痛いほどわかる。
だが・・・・。

著者はその問いを最後の方に投げかけている。
愛する者を亡くした、一人の無垢な少女が
悟ったもの・・・。
それはいったい何なのか?
ただの少女の復讐譚ではなく、その裏にある
奥深いテーマを、江戸の情緒あふれる風景を背に描かれ、
この物語の非情さ切なさがよりクローズアップされるている。

『五弁の椿』
著者:山本周五郎
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥550(税別)