「撃てない警官」柴崎令司シリーズ最新刊「伴連れ」

安東能明氏は、『撃てない警官』に収録された『随鑑』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞したミステリ作家です。
『撃てない警官』・『出署せず』は、人気警察小説作家の
方々から絶賛の声が上がっています。
今野敏さんは、‘刑事たちのリアルな息づかいが痛いほど迫ってくる’
誉田哲也さんは、‘確かな手ごたえと重み、味わい深い作品集’
などなど!はまさきも2作目の「出署せず」を読んでから
このシリーズが好きになりました。

出世街道まっしぐらだった柴崎令司は、部下の拳銃自殺の責任を負わされ、
所轄の綾瀬署の警務課へ左遷。
その後、綾瀬署では捜査経験もないのに、便利に使われている。
しかし、柴崎は洞察力が鋭く、そこいらの刑事よりも
事件の本筋を見極める眼を持っているようだ。
そしてシリーズ3作の短編集「伴連れ」も傑作揃い。

伴連れ

「掏られた刑事」
綾瀬署に新聞記者から、警察手帳を掏り取られた刑事がいるとの
連絡が入った。その刑事は、高野朋美巡査だ。
警察手帳を紛失するという大失態を犯しているのに、
のんきに構える高野巡査を見て、坂元真紀署長は憤慨する。
どこで、手帳を掏られたのか?柴崎は盗犯係とともに、
高野巡査の行動を探ってゆく。
だが、捜査を続けるうち、この手帳紛失事件は全く
別の貌を見せ始めた・・・。

「墜ちた者」
老朽激しいアパートで少年が転落死した。
捜査を開始した、綾瀬署は転落死した少年から
脱法ハーブが検出されたとの報告を受けた。
柴崎は、坂元署長からの依頼で少年第3係で非行少年の
更生を図る、中道係長に話を聞くことになった。
中道の話を元にさらに探ってゆくと、振り込め詐欺グループの
事件に行き当たる・・。

「Mの行方」
綾瀬署にストーカー被害の相談が持ち込まれた。
生活安全課防犯係の刑事は、ストーカーをしていた男に
近寄らないよいう誓約書を書かせた。
だが、再び女性から被害の訴えがあがった。
事態を重く見た、坂元真紀署長は、柴崎にも捜査の
支援をするように指示をする。
被害にあっている女性の警護をするため、高野朋美巡査も
応援に回った。
年が近いこともあり、被害者の女性は高野に心を開くが・・・。
ストーカー加害者の男性は気になることを言っていた。
「僕の方こそ騙されていた・・」一体どういう意味なのか?
ストーカー事件は意外な方向へと向かう・・・。

「脈の制動」
病院の医療ミスだと言い張る男。しかし、調べてみると
病院に落ち度はなさそうだ。
柴崎と高野巡査は、その男の周辺を調査すると
看護師の妻と再婚していることがわかった。
妻には娘がおり、男はどうもその娘に虐待を加えているらしい。
医療ミスと虐待・・・一見無関係のように思える事件だが・・・

「伴連れ」
元裁判官の夫婦が暮らすマンションに強盗が入り、夫の方が大怪我をした。
夫は脳梗塞で体の自由が効かない上の怪我・・・。
盗犯係りの高野巡査と柴崎は事情を聞きに病院へ向かった。
夫から話を聞いている間、妻はずっと茫然自失状態だった。
そんな妻に対して、夫は厳しい声をあげる!
そんな二人のやりとりを見て、柴崎たちは違和感を覚えた。
早速マンション周辺の捜査を開始する。元裁判官だった
夫の方はマンションの住人からも信頼されていた。
また、老夫婦の下の階に住む女性は、音に対し敏感で、
上階の住人がたてる音を詳細に記録していた。
柴崎はその記録を見て、さらに違和感を覚えてしまう・・・。

警察手帳紛失という大失態を乗り越え、刑事として奮闘する
高野を見守る柴崎。様々な事件に向き合い、そして厳しい
署長たちのぶつかり合いながらも刑事として目覚めてゆく高野朋美。

そして、事件は一筋縄出は解決しない。
リアリティに富んだ事件、その事件の過程には実に巧妙な仕掛けが施されている。
警察小説と本格ミステリの融合ともいうべき作品だ。
2016年8月には長編が発売される。
乞うご期待!

『伴連れ』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥710(税別)