ドラマティック!警察ミステリー「内通者」。

堂場瞬一さんの警察小説です。
2017年2月の新刊。
本格的な警察小説でありつつ、家族との絆がリアルに
描かれた、これ、ドラマにした面白いだろうな思った作品
「内通者」(朝日文庫)です。

千葉県警捜査二課の結城は、千葉県土木局とある建設会社の
汚職事件を追っていた。
捜査の発端は、建設会社の窓際社員による内部告発だった。
彼の情報により、汚職に手を染めている、建設会社役員と
県土木局の部長、二人を絞り込みんだ。
そして、結城をはじめとする捜査二課で連日張り込みを続けていた。
だが、なかなか尻尾をつかませない。

そんな時、結城の妻が「脳幹出血」で倒れた。
病院にかけつけたが、妻の意識は戻らず亡くなってしまった。
なぜ気づかなかったのか!と娘に責められた。
あまりに突然のことで、結城は茫然自失の状態だった。

妻を失った悲しみを抱えつつ、現場復帰を果たした結城だったが、
捜査は進展せず、プライベートでは娘との距離の取り方に悩んでいた。
そんなある日、娘から連絡が来た。
しかし、娘にいつもの元気がない、不審に思った結城だったが、
娘に遠慮してしまい何も問うことが出来なかった。
結城の娘は実はあることで悩んでいたのだ。
見知らぬ男から「あんたは結城の娘じゃない」と電話が入ったこと。

結城の家族に忍び寄る悪意。
そして、内部告発者の不可解な動き。
この汚職事件は、結城と彼の娘を巻き込み、
次第にスリリングな展開へと発展する。

警察小説の要ともいうべき、汚職の捜査の経過、
これが実にリアルな描写。
内部告発者の揺れ動く心理状態。
この汚職事件は、本当の事なのか?次第に疑心暗鬼になってくる。

また、結城の娘に迫る危機。刑事の娘なんだからと突っ張るが
悪意はすぐそこまで迫ってきているのだ。

事件捜査の過程は本格的な警察小説だ。
じわじわと容疑者たちを追いつめる刑事たちの動きは
非常に臨場感があり、読み応えがある。
だがこの作品の凄いとところは、結城と娘の関係が
濃厚に描かれていること。
ただの警察小説ではなく、家族を描くことによって
奥の深い作品になっている。

シリーズもたくさんあるが、私はこの作品を読んで、
益々、堂場作品を好きになってしまった。

『内通者』
著者:堂場瞬一
出版社:朝日新聞出版(文庫)
価格:¥760(税別)