元・女性刑事の再生と恋を描く!「冬芽の人」

「新宿鮫」シリーズの著者・大沢在昌さんの作品。
元刑事の女性が主人公の「冬芽の人」。
今年の4月に鈴木京香さん主演でドラマ化されたようです。
(残念ながら視られなかった!!視たかったな~。)

大沢さんの描く作品は、鮫島刑事のようなクールで、
悪い奴は徹底的に倒す、そんなハードなイメージが
ありましたが、「冬芽の人」は、心に深い疵を
持つ元女性刑事が主人公だったので、どんな
作品なのか非常に興味を惹かれ読んでみました。

警視庁捜査一課の刑事だった、牧しずりは、6年前信頼する相棒の
先輩刑事とともに強盗殺人事件の容疑者と思われる男の家を訪ねた。
ところが、しずりは容疑者と思われる男に突き倒されてしまう。
そして先輩刑事は、しずりをかばって階段から転げ落ち大けがを負う。
容疑者と思われる男はそのまま逃走した。しずりは男を追ったが
走行中のトラックにはねられ死亡した。
病院に搬送された先輩刑事は、その怪我がもとで亡くなってしまう。

この事件は、捜査本部内でも疑惑の眼が向けられた。
なぜ死亡した男が容疑者だと思ったのか?
死亡した刑事と容疑者の間ではどんな会話が為されたのか?
しずりは先輩の言う通りの行動をとっていたため、何もわからなかった。

妻がありながら、しずりに好意を寄せていた先輩刑事。
自分をかばって亡くなった。彼の妻からはそう責められ、
しずりは罪の意識にさいなまれ、刑事を辞めた。

1年後、普通のOLになったしずりだったが、過去にとらわれ
会社内でもなかなか打ち解けることが出来なかった。
そして5年が経過した・・・。

しずりは、いつものように先輩刑事の墓参りに行った。
そこで一人の青年・岬人と出会う。
岬人は、なんと先輩刑事の息子だったのだ。
先輩刑事が亡くなった時、しずりを責めたのは2番目の妻で、
岬人は、先輩刑事の最初の妻との間に出来た子どもだった。
驚くしずり。しかし岬人のさわやかな態度と優しい心遣いに
頑なだったしずりの心は次第に解けてゆく。

岬人はしずりから6年前の事件の経緯を聞くと、納得できないような
ことを言いだした。自分の父親の死の裏で何か起こっていたのではと。
しずりも忘れようとしていた当時の事を思いだし、元刑事の感が
蘇ってきた・・・。

そんなある日、岬人から連絡が入った。
6年前、強盗殺人事件の容疑者をひいたトラック運転手が
岬人のバイト先で働いており、「合法的に人を殺せる。
大型トラックでひいてしまえばいい」と話していたというのだ。

しずりと岬人はその男が本当に6年前に容疑者をひいた男かどうか
確認するため、男が通っている食堂で待ち伏せをした。
しずりはやってきた男を見た時、間違いないと感じた。
その瞬間、しずりはその男と目があってしまう。
男の眼に宿ったのは、不審・・・そのあとの驚愕!そして怯えだった。
しずりは男の眼を見た瞬間、6年前の事件が何者かに仕組まれたものだと
気がつく・・・・。

しずりは、自分をかばって死んだ先輩刑事へずっと罪悪感を抱いていた。
そして、常になぜ自分は生きているのか・・なんのために生き残って
いるのかを考え続けていた。
それは、岬人との邂逅。そして6年前の事件の真実を白日のもとへ
曝すことなのだと気づく。
しかし、魔の手はしずりだけでなく、現在の彼女にとって命と同じくらい
大切な岬人へも迫っていた。
しずりは命をかけ、岬人を守ると心に誓う。

岬人との邂逅で、過去の自分と決別しようとする、しずりの心の変化が
手に取るようにわかる。
心に深い傷を持った女性が、男性の好意に素直になれない。
その描き方も大人だな~と感じる。

二人で事件に向き合う過程や、次々と関係者が亡くなって
いく不気味さ、何が起こっているのかなかなかつかめない謎に満ちた
ストーリー展開、しずりの底知れぬメンタルの強靭さと、恋に揺れるはかなさ。
それらすべてが絶妙なバランスで描いてあり、さらに大沢さんお得意の
ハードボイルドな展開も申し分ない。

長編だけれどその長さは全く気にならない。
むしろもう終盤!?と物語が終わってしまうのが
惜しいくらいの面白さだった。

次も女性が主人公の「ライアー」を読んでみたくなりました。

『冬芽の人』
著者:大沢在昌
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥840(税別)