幸福な余韻に浸れる美術ミステリー『楽園のカンヴァス』

はまさき、美術鑑賞が好きです。なかでも絵画鑑賞が好きで美術館によく行きます。
都市に出かけたそのときは、そこで開催されている絵画展に行くのが楽しみの一つでもあります。
なので、美術がテーマの小説も結構読みます。
今回紹介する本も絵画が取り上げられた作品。グループセンター店でたくさん積んでいます。
スタッフに超プッシュされて読みました。原田マハさんの『楽園のカンヴァス』(新潮社刊)です。
美術の教科書にもよく載っている『眠るジプシー女』を描いた、アンリ・ルソー。この作品の表紙はあまりにも有名な、ルソーの『夢』。そのルソーに魅せられた人たちの物語。
ニューヨーク近代美術館のアシスタント・キュレーター ティム・ブラウンはいつか上司のトム・ブラウン追い抜いて、チーフ・キュレーターになりたいとちょっとした野心を抱いていた。
ある日彼のもとに伝説のコレクター、コンラート・バイラーからの招待状が届く。
その内容はある名作の鑑定をしてほしいとの依頼だった。こんなチャンス二度と来ない、チーフのトムではなく自分に届いたものと言い聞かせ、ティムは指定された場所へと旅立った。
そこで彼はもうひとりの鑑定人、日本人女性・早川織江と出会う。二人が見せられた絵は、ティムが愛して止まない画家、ルソーの『夢』!?しかし『夢』はニューヨーク近代美術館に所蔵されており、展覧会用に写真撮影したばかり・・・・。よく観ると『夢』に似ているが、ちょっと違う。バイラーはこの真贋を鑑定せよと言う。そして真贋を正しく判定した方にその絵を譲ると宣言した。ヒントとして渡されたのは、1冊の古書。これを二人で交互に読み判定する。リミットは7日間。
ルソーは元税関吏だったこともあり、「税関吏画家」や、休日に趣味で絵を描いていたことから『日曜画家』などと云う、職業画家としてあまりありがたくないニックネームがついていた。生前はなかなか認められず非常に貧しかったようだ。
しかしピカソや、詩人アポリネールらが彼の才能をいち早く見抜き、ルソーを励まし続けた。ピカソは特にルソーと親しかったようだ。そして、ティムと織江もルソーを愛した。二人がルソーを守ろうと必死になる場面は感動的。また古書に描かれたエピソードがフィクションなのかノンフィクションなのか謎に満ちていて、面白い!そして何よりもこの作品に満ちているのは、ルソーに対する愛情だ。
謎が解き明かされたとき、そしてティムと織江がルソーに導かれ再会を果たすシーンは思わず涙が・・・・。
読後は幸福感に浸れる、極上の絵画ミステリー。
『楽園のカンヴァス』
著者: 原田マハ
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)