八咫烏シリーズ6第1部完結編「弥栄の烏」に感動。

シリーズを重ねる都度、面白さが増す阿部智里さんの
「八咫烏」シリーズ。
最新作「弥栄の烏」は、6作目で第1部完結編となる物語。

「弥栄の烏」は、人間の志帆が山神を育ててゆく
過程が描かれた前作「玉依姫」の対となる作品。
山内側の八咫烏の視点から描かれた物語。

2作を読むことによって、前作「玉依姫」と
「弥栄の烏」に共通する‘謎’の解明が為されている。

かつてないほどの大地の震動で、山内は崩れそうになった。
そんな時、大猿に呼び出された若宮は、山神のもとへと連れてゆかれる。
恐怖に怯えながら進んでゆくと、醜い化け物が現れた。
人間の女の血肉をむさぼっている姿は、もはや山神とは程遠い。

大地震の恐怖に縛られ、山神に服従を余儀なくされた若宮。
結界のほころびを修復したり、山神のもとへ呼び出されたり
と多忙を極め、日に日に弱くなっていった。
ある日、山神の化け物から、御供の世話を押し付けられる。
御供とは、捧げもの意味。それは人間の女性だった。
志帆という名の若い女。若宮は必死に面倒を見ていたが、
突然いなくなってしまう。
怒り狂った山神の化け物は、さらなる大地震を引き起こした!
神域を守っていた山内の戦闘員の何人かか犠牲になってしまった。

悲しみに打ちひしがれる、若宮の参謀・雪哉たち。
その中でも、雪哉は猿たちに向け憎悪の炎を燃やした・・・。

山神の化け物のせいで、山内は危険な状態に陥った。
早く手を打たねば、八咫烏の異世界は崩壊する・・・。
金烏である若宮は、金烏の記憶が全く戻らず憔悴していた。

山内を守る若宮。山内の危機を知り、必死で若宮の
記憶を調べる、天狗の長、そして山神の化け物を慈しみ
育てる人間の女性・志帆。
山神は山神らしく清らかなものへと変化する。

八咫烏の異世界を通して、人間界に語られるメッセージ。
善悪が表裏一体となって描かれる。
若宮の苦悩、金烏としての責任。妻への思い。
そのはざまで揺れる姿。
愛する仲間を奪われ、復讐に囚われる雪哉。

第1部完結編となる本書は、胸が張り裂けそうになる
真実と心穏やかなクライマックスが癒しを与えてくれる、
まさに‘完結’にふさわしい終結を見た。

第2部のスタートが待ち遠しい。

『弥栄の烏』
著者:阿部智里
出版社:文藝春秋
価格:¥1,500(税別)