この女、淑女か?悪女か?「レイチェル」

高校の時にダフネ・デュ・モーリアの
「レベッカ」を読んだ。
その時の衝撃は今でも忘れられない。

ダフネ・デュ・モーリアの作品はレベッカ」
しか読んでいなかったので、たまたま平積
してあったこの「レイチェル」を衝動買いして
しまった。表紙のイラストにも惹かれた。
高校の時に受けた衝撃をまた感じたい!
そして読み始めた・・・。

「レイチェル」をひと言でいえば、一人の
女性「レイチェル」に恋をした二人の男が
破滅へと導かれるサスペンスストーリーだ。

イングランドの貴族の青年・フィリップが主人公。
父親代わりに育ててもらった従兄がイタリアで
「レイチェル」と言う女性に出会う。
従兄はレイチェルと恋に落ち結婚するが、
病に倒れ、その地で亡くなってしまう。

従兄を死に追いやったと思い込み、
レイチェル憎むフィリップ。

しかし、従兄の形見を持参したレイチェルは
とても穏やかで、従兄を亡くした悲しみを
包み込んでくれた。そんなレイチェルに
フィリップは次第に心を開いてゆく・・。

憎しみで凝り固まっていたフィリップ。
レイチェルの美しさと優しさと聡明さに
いつしか恋心を抱くようになる。

しかし、従兄が死の直前に書いた手紙には
レイチェルを「悪女」と評していた。

従兄はレイチェルに遺産を残す遺言を書いていなかった。
そのため、フィリップが遺産を相続することになる。
25歳の誕生日が近づいた頃、フィリップはある計画を立てる。
遺産を相続したら、レイチェルを妻に迎えようと・・・。

従兄に育てられたフィリップは、純粋培養された
素直な青年だ。そんな青年をを見事に手玉に取り、
財産をかすめ取る。
冷酷な女性のように思えるが、読んでいると
思いやりに満ちた女性に感じる・・・。
女性でも共感するのだ。
ここで女性読者も完全にレイチェルの虜に
なっていると思う。

この作品の素晴らしさは、心が純粋で、
疑うことを知らない青年が、一人の女性に
激しい恋心を抱いてゆく過程の心理描写が
実に見事なことだ。
さらにレイチェルというキャラクターの
描き方も素晴らしい。
彼女の言葉、たたずまいなど、人間を虜にする
すべての要素を満たしている。

フィリップはレイチェルについて様々な雑音を
入れられるが、レイチェルを正当化するため
そのすべてを否定してしまう。
それほどまでに心を奪われてしまっているのだ。

いったい、レイチェルは淑女なのか?悪女なのか?

男女の恋の駆け引きと危険な疑惑が交差する、
サスペンスタッチの純愛物語。

名著「レベッカ」と双璧をなす衝撃そして傑作!

『レイチェル』
著者:ダフネ・デュ・モーリア著/務台夏子訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,200(税別)