ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ第4弾「ナイフをひねれば」

ホロヴィッツ自身が作品中に本人役で登場し、
元刑事の偏屈探偵・ホーソーンと
コンビを組んだシリーズ「メインテーマは殺人」、
「その裁きは死」「殺しへのライン」に続く
4作目が本書「ナイフをひねれば」だ。

毎回、ピンチに陥るホロヴィッツ。
今回はどんな事件に巻き込まれるのか!?

ホーソーンを主人公にしたミステリ作品を
書くのに耐えかねたホロヴィッツは、
ホーソーンに契約の打切りを告げる。

だが、ホーソーンは納得しなかった。
後味の悪い別れ方をした二人・・・。

ホロヴィッツは自分が書いた戯曲の
舞台の初日、打ち上げに呼ばれた。
ところがその場に辛辣な劇評家が現れる。
そこで、ホロヴィッツの戯曲は酷評された。

翌朝、その劇評家の変死体が発見される。
殺人に使われた凶器は、昨夜の打ち上げで
参加者全員に配られた記念の短剣。
その短剣からホロヴィッツの指紋が検出された。
そして、ホロヴィッツは逮捕される・・・。

彼を逮捕したのは、前回の事件で
ホロヴィッツに煮え湯を飲まされた警部だった。
彼は無実を訴えたが、「指紋」という
ゆるぎない証拠があるため警察は納得しない。

ホロヴィッツは自分を助けてくれるのは
あの男しかいないと確信するが・・・。

随所に隠された伏線の数々。
その伏線の見事すぎる置き方に感服する。
何気ない聴取の中に事件のキーが隠されているのだ。

そして、今回は著者自身が逮捕されるという
前代未聞の展開。
味方はほぼいない中、ホーソーンだけが
頼りだというのに、いつもの調子で
ホロヴィッツも読者もドキドキものだ。

さらに、あまりにも意外な展開と結末!!!
シリーズ中、一番面白かった。

周囲の空気を全く読む気がない「超」
KYだが、卓越した推理力で事件の真相を
暴く探偵・ホーソーン。
「超」人気のミステリー作家でありながら、
自虐と思わせるほど作中で無能さを
アピールするホロヴィッツ。

この二人のコンビ、まだまだ読みたいから、
ホロヴィッツさん、ホーソーンとの契約を
切らないで欲しい~~~。

『ナイフをひねれば』
著者:アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,210(¥1,100+税)

見事な仕掛け!?「8つの完璧な殺人」P・スワンソン

「時計仕掛けの恋人」「そしてミランダを殺す」
「ケイトが恐れるすべて」「アリスが語らないことは」
「だから、ダスティンは死んだ」、
など、著者の描くミステリー作品は予測不能!
いつも、信じられない結末に息をのむ展開!
そして、最新作「8つの完璧な殺人」は
なんと、ミステリーの名作が8つも登場!
著者の名作ミステリーへのオマージュが半端ない!

雪の夜、ミステリー専門店店主・マルコムの
もとへFBIの女性捜査官が訪れた。

マルコムは10年前に、完璧な完全殺人を描いた
犯罪小説8作品をリスト化し、お店のブログに
掲載していた。

その8作品とは、
「赤い館の秘密」A・A・ミルン
「殺意」フランシス・アイルズ
「ABC殺人事件」アガサ・クリスティ
「アクロイド殺人事件」アガサ・クリスティ
「殺人保険」ジェイムズ・M・ケイン
「見知らぬ乗客」パトリシア・ハイスミス
「The drowner」ジョン・D・マクドナルド(邦訳なし)
「死の罠」アイラ・レヴィン
「シークレット・ヒストリー 黙約」ドナ・タート
ミステリーファンならば一度は手に取っているはず・・・・。

その捜査は、この「完璧な殺人」を模倣した
連続殺人が起こっているという。
犯人は、マルコムが掲載したリストに従って
殺しているのか?

犯人はなかなか浮かび上がってこない。
マルコムはリストにある完璧な殺人を描いた
作品をよく知っている。疑惑の渦中にある。

著者がどれほど上記の8つの作品を読み込んで
いるのか・・・?わかる。
作品の中で行われる殺害方法を研究し
応用し実行する。

著者の巧妙な仕掛けにはまり、思いも
よらない方向へと導かれる。

名作ミステリーのストーリーも楽しめて、
さらに、本編の謎解きも楽しめる!
2重の面白さに、ワクワクが止まらない!

海外ミステリーファンには超おススメの1作。

『8つの完璧な殺人』
著者:ピーター・スワンソン/務台夏子(訳)
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,210(¥1,100+税)

どこまでも翻弄される!?「だから、ダスティンは死んだ」P・スワンソン

「時計仕掛けの恋人」「そしてミランダを殺す」
「ケイトが恐れるすべて」「アリスが語らないことは」
など、著者の描くミステリー作品は予測不能で
読者はいったいどこへ連れていかれるやら…。
とドキドキしながら読み、驚愕のラストでがつん!
とやられてしまう展開が癖になる作品ばかりで
新作が発売されるとつい、読みたくなってしまう。
しかし、この作品「だから、ダスティンは死んだ」
は、最後に「がつん」とくるのではなく、「がつん」
の連鎖が半端ない!

ボストン郊外の閑静な住宅街へ越してきた
ヘンリエッタと夫のロイドは、隣に住む
マシューとマイラ夫妻とすぐに打ち解け、
食事に招待された。

食後、マシューの書斎へ案内された時、
ヘンリエッタは眩暈を覚えそうになる。
それは、二年半前のダスティン・ミラー
殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち
去ったとされる置物を目にしたからだった。

見間違いかと思ったが、翌日口実を設け
もう一度マシューの部屋に案内をしてもらった。
しかし、その置物はなくなっていた。

昨日のヘンリエッタの態度で、マシューに
気づかれ、置物を隠したのだと確信した
ヘンリエッタ。彼は殺人犯に違いない・・・。

それから、ヘンリエッタはマシューに
ついて調べ、彼につきまとう。
警察にも通報するが、逆にヘンリエッタは
隣家から接近禁止命令を受ける羽目に・・・。

次々と「えッ?何で?」と首をひねりたくなる
ありえない展開が続く。
そして、複数目線で語られる物語は、
読み進めると誰の目線なのかわからなくなり、
まるで迷宮に入ったかのような錯覚に陥る。

この展開は、著者にしかできない。
真相は暴かれたにも関わらず、その先に
まだ隠された何かがあるのだ!

これだから、スワンソン作品は止められない!
著者の作品は、中毒性を持っている。
一度はまると抜け出せない。
超絶サスペンスミステリーなのだ!

『だから、ダスティンは死んだ』
著者:ピーター・スワンソン
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,210(¥1,100+税)

女子高生探偵が大活躍の人気シリーズ完結!「卒業生には向かない真実」

「自由研究には向かない殺人」「優等生は探偵に向かない」
に続く第三作は、「卒業生には向かない真実」
人気シリーズもこの三作目で完結となる。

もっとピップの活躍を読みたかったが、
あまりにもつらい事件が彼女を襲うので、
早く解放してあげたいと思っていた。

この完結編は、シリーズ最高傑作だと思う。

卒業を間近に控えたピップは、大学入試直前に
ストーカーらしき人物に嫌がらせをされていた。
無言電話、匿名のメール、ピップの家の敷地に
首を斬りとられたハトの死骸が置いてあった。
さらに、私道にチョークで首のない棒人間が
描かれていた・・・・。

それらの行為が6年前の連続殺人の被害者にも起きた
ことと似ている・・・?
犯人は捕まり服役中だというのに?
でも逮捕された人物は無実を訴えているという。
まさか冤罪で犯人はほかにいるのか・・・?
そう考えたピップは調査に乗り出す。
この時はまだ自分に危険が及ぶことがあるなど
予想もできないでいた。

さらにピッパは、マックス・ヘイスティングス
から名誉棄損で訴えられていた。
ピップは彼のやったことを許せないでいたので、
彼からの折衷案は絶対にのまないと心に決めていた。

両親には心配をかけすぎるので、そのことは
黙っていた。
不安な気持ちを恋人のラヴィだけに話していた。
ラヴィはピップを守ろうとする・・・。

だが、魔の手はピップに迫っていた・・・。

既刊2作品はこの完結編のための伏線だったのでは
と思わせるくらい、圧巻だ。
すべての謎はこの完結編で繋がるのだ。

しかし、恐ろしいほどに息をのむ、あり得ない
展開が繰り広げられる。
この衝撃と真実は到底受け入れがたいが・・・。

今回もピップの凄まじい行動力と突出した
頭の良さには舌を巻く。
友人たちとの絆の深さと最愛の恋人・ラヴィとの
愛情の深さに感動した。

シリーズ中、一番ハラハラさせられた。

『卒業生には向かない真実』
著者:ホリー・ジャクソン著/服部京子訳
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)

見当たり捜査官の厳しさを描く「心眼」

相場英雄さんの「心眼」(実業之日本社)読了。

指名手配犯の顔を頭に刻み付け、日々街頭に
たち、ひたすら犯人を追う見当たり捜査官。
彼らの激務の過程を描く、傑作警察小説。

警視庁の捜査共助課の新米刑事・片桐は、
見当たり捜査員になってまだ1年足らず。

毎日街頭に立ち続けるが、今だに成果は
上がっていない。

同じ課の先輩刑事の補佐などで、コツは
掴みかけているが、自分の手柄をあげた
ことはなかった。

しかし、同じ課の上司で係長の稲本は1人で
次々と大物手配犯を挙げ、圧倒的な
結果を残していた。
ただ、課の中では一匹狼の彼は浮いて
おり、誰も話しかけなかった。

片桐はそんなことも構わず、稲本に
捜査のイロハを聞きこむ。
だが、軽くあしらわれる始末。

片桐はなんとしてでも手配犯を挙げると
心に誓う。

そんな時、新しい捜査一課長が就任してきた。
一課長は、ハイテク捜査に力を入れ、
非効率極まりない「見当たり捜査」を不要だと
ぶちまける。
「見当たり捜査班」は絶対絶命のピンチに陥る!

見当たり捜査官としてのプライドを傷つけられた
彼らは、稲本始め、チーム一丸となって
犯人確保に邁進する・・・!

犯人確保に情熱を傾ける警察官の地道な努力。
ハイテク捜査も確かに有効だが、それだけに
頼って良いのか?
何十年も積み重ねたベテラン刑事の「眼」は
ただ犯人確保だけではない、その裏にある
事件の本質をも見抜くのだ。

片桐も、稲本の教えによって徐々に成長し、
確かな「心眼」を備えていくだろう・・・。

警察官の仕事について、またハイテク捜査の裏
にある画策や、監視社会についても深いところまで
描いてある、硬派な警察小説。
渋くてとても面白かった。

『心眼』
著者:相場英雄
出版社:実業之日本社
価格:¥1,980(本体¥1,800+税)

解決篇が袋とじ!?話題のポケミス「死と奇術師」

トム・ミードのデビュー作「死と奇術師」
(早川書房)読了!
解決篇は、なんと!ポケミス史上初の
袋とじ!ワクワクします!

1936年、ロンドン。
舞台女優のデラは、秘密を抱えていた。
彼女はある人物へ相談しようとしていた。

それは、高名な心理学者・リーズ博士だった。
デラは彼の患者Bだ。

その日、リーズ博士は夜遅くに来る客を待っていた。
使用人のミセス・ターナーにも来客の話は通しておいた。
雨の中、その客はやってきた。

リーズ博士から案内は無用と言われていたので、
部屋の説明だけして、ミセス・ターナーは仕事に戻った。

その時、女優のデラが突然やってきた。
ミセス・ターナーは博士は来客中だと言って
デラを追い返そうとしたが、デラは無理やり
家の中に入り、博士の部屋まで押しかけようとした。

博士に呼びかけたが、まったく反応がない。
何か変だと感じたミセス・ターナーとデラは
裏技を使って博士の部屋の鍵を開けると、
喉を掻き切られ、息絶えた博士を発見した。

博士の書斎は密室状態、さらに凶器も見つからず、
死の直前に博士を訪れた謎の男の正体も
不明だった。
外に出るにはミセス・ターナーたちが
いる居間を通らなければならない。
しかし男が通った気配はなかった。
犯人はどうやって逃げたのか?

不可解な事件、いわゆる不可能犯罪に頭を
悩ませた、ジョージ・フリンと警部補は、
元奇術師の私立探偵・ジョセフ・スペクターに
捜査協力を依頼するが・・・。

多重に仕掛けられた不可能犯罪、
練り練られた密室トリック、さらに多数の
妖しい容疑者たち・・・。
登場人物たちの精神病理的な部分にも斬り込んでいて、
興味深い。

古典ミステリへのリスペクトが半端なく、
時代背景や舞台設定など、カーやクイーンの
世界観が好きなミステリファンにはたまらない作品。
おまけに、解決篇が袋とじという読者挑戦もので、
推理する楽しさも味わえる!!
デビュー作とは思えない、完成度の高いミステリ作品。

『死と奇術師』
著者:トム・ミード/中山宥訳
出版社:早川書房(ポケットミステリ)
価格:¥1,980(¥1,800+税)

海外ミステリーの面白さが詰まっている!「ストーンサークルの殺人」

最近話題になっている、M・W・クレイヴン
「ストーンサークルの殺人」
(ハヤカワ文庫)読了。

500ページ超の大作なのに、長さを全く
感じさせないテンポで読めた。
翻訳がとにかく読みやすい。
英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞作。
それも納得の面白さだった。

国家犯罪対策庁(NCA)の重大犯罪分析課に
所属するワシントン・ポーは、大失態を犯し、
現在停職中だ。

一方、カンブリア州内のストーンサークルで
年配の男性が焼き殺されるという残虐な
連続殺人事件が発生していた。

猟奇的なな犯行を繰り返す犯人を、マスコミは
「イモレーション・マン」と名付け連日報道していた。
犯人は大胆な手口で犯行を重ねながらも、用意周到で
捜査は難航。
カンブリア警察署は、重大犯罪分析課に協力を仰いだ。
そして三人目の被害者の胸にポーのフルネームと
数字の5が刻み込まれているのが判明!

ポーの部下だった、ステファニー・フリンが
事件の詳細と彼の停職処分が解けたのを伝えに
やって来たのだ。

ポーは自分がなぜ狙われるのかわからないまま
捜査を開始するが・・・。

犯人はなぜ年配の男性のみを狙うのか?
ストーンサークル にはどんな秘密があるのか?
残虐な殺害方法は怨恨なのか?
ポーは本当に5人目のターゲットなのか?

無差別と思われていた事件だったが、捜査が進むにつれ
殺された男たちはみな名士とされる者たちだと判明する。

この作品、ワシントン・ポーの他に魅力的な人物が登場する。
分析官のティリー・ブラッドショー。
ちょっと浮世離れしているが、頭の良さはハイレベル。
データマイニングで高い能力を発揮し、分析課の
中で徐々に頭角を現す。ポーもティリーも
不器用で人付き合いは苦手。
そんな二人のコンビネーションが事件解決に一役買う。
この二人が徐々に信頼し合っていく関係性が読んでいて
ホッとする。

ワシントン・ポーシリーズ第1弾。
海外ミステリーの面白さ、醍醐味がたくさん
詰まっている。
「ブラックサマーの殺人」「キュレーターの殺人」
と続く。

『ストーンサークルの殺人』
著者:M・W・クレイヴン/東野さやか訳
出版社:早川書房
価格:¥1,298(本体¥1,180+税)

大切なものを守る!凄腕の殺し屋の闘いを描く「アイアン・ハウス」

ジョン・ハート「アイアン・ハウス 上下」
(ハヤカワ文庫)読了。

凄腕の殺し屋・マイケル。そんな経歴を持つ
男が平凡な幸せを掴むことが出来るのか?
心の震わす、男の闘いが描かれる。

親に捨てられたマイケルと弟のジュリアン。
彼らは孤児院に預けられた。
二人にとってそこは地獄のような場所だった。
兄・マイケルは強靭なメンタルで生き抜いて
いたが、弟のジュリアンは小さくて弱気だ。
そのため、悪ガキたちに目をつけられ虐め抜かれ
精神を病んでしまった。
そんなジュリアンは孤児院でとんでもない事件を
起こす。マイケルはジュリアンの事件を
隠蔽し脱走。ジュリアンは上院議員夫妻に
引き取られた。

その後、マイケルは凄腕の殺し屋になっていた。
ボスに忠誠を誓っていたが、美しい恋人・
エレナの妊娠を知り、組織を抜けたいと
ボスに訴えた。瀕死のボスはマイケルの
幸せを考慮し、組織を抜けることを承諾する。
ところがボスの息子と手下のジミーはそれに反対。
マイケルは組織から追われることになる。

マイケルの経歴を知らなかったエレナは、その事態に
衝撃を受け、マイケルとの関係に心が揺れる。

組織からの逃亡を続ける中、ジミーらは
エレナとジュリアンをもターゲットに!

マイケルはエレナとともに上院議員の
邸宅へと向かう。
上院議員夫人のアビゲイルが彼らを匿うと言った。
ジュリアンは作家となり成功を収めていた。
しかし、ジュリアンは何かに怯え、マイケルと
会ったときは彼のことさえ認識できないでいた。

そして、邸宅で無惨な死体が見つかる。
その死体は孤児院でジュリアンを虐めていた
連中の一人だった。
まさか、弟が犯人なのか・・・・!?

恋人・エレナ、大切な弟ジュリアン。
そして弟を本当の息子のように愛する
上院議員夫人・アビゲイル。
マイケルは彼らのため、そして殺人容疑を
かけられたジュリアンとアビゲイルを救うため、
死地へと向かう。

冒頭から凄まじいアクションシーンの連続と
怒涛の幕開け。
ハードボイルド的展開、殺人事件の謎を追う
ミステリー、そして家族、恋人を想う
「愛」の物語でもある。

ハートを射抜かれること間違いなしの
最高に面白い海外傑作ミステリー。

『アイアン・ハウス 上下 』
著者:ジョン・ハート/東野さやか訳
出版社:早川書房
価格:上下¥935(本体¥850+税)

北欧ミステリーの極致、犯罪捜査官・エーレンデュルシリーズ最新作「サイン 印」

アイスランド、レイキャビク警察、犯罪捜査官・
エーレンデュルシリーズ最新作「サイン 印」読了。
毎回、心を揺さぶられる。大好きなシリーズ。
毎回切なすぎる展開なのに、なぜか心を掴んで離さない。

湖のほとりのサマーハウスで女性の首つり遺体が
発見された。
第一発見者は、その女性の幼馴染の友人だった。

エーレンデュルが夫に話を聞くと、二年前にとても
親密にしていた母親が亡くなり、
精神的にとても不安定だったという。
そして、死後の世界に助けを求めるようになり、
霊媒師のもとへ出入りするようになったらしい。

自殺してもおかしくない状況は揃っていて、
自殺で間違いないとほぼ断定されてしまう。

ところが、第一発見者で女性の幼馴染から
彼女が自殺するはずがないと証言を得る。
さらに、その女性から預かったあるテープを
聞き、自殺説に疑いを持ったエーレンデュルは
独自に捜査を開始する。

エーレンデュルの事件捜査と並行して
エーレンデュルの家族のことが描かれる。
十代の頃、弟を喪ったエーレンデュルの
深い悲しみ。
その過去の呪縛を抱えたまま結婚し
二人の子どもエヴァリンドとシンドリスナイル
に恵まれるが、妻と離婚。子どもたちと
会うこともなく孤独な日々を過ごした。

ところが大人になった子どもたちが
エーレンデュルに会いにくる。
彼らはエーレンデュルに憎しみさえ
抱いていた。
彼らの気持ちをそのまま受け入れ、
子どもたちと向き合うエーレンデュル。

孤独な捜査は、亡くなった女性の悲痛な過去を
暴いてゆく。
エーレンデュルは執拗に彼女の死の真実を追い求める。
そして、明らかになった真実はあまりにも悲劇的だ。

女性の心の痛みを自らのことのように共感するエーレンデュル。

家族とは?夫婦とはいったい何なのか?
あまりにも深く、切ない問いに心の奥底まで
揺さぶられる。

『サイン 印』
著者:アーナルデュル・インドリダスン著/柳沢由実子
出版社:東京創元社
価格:¥2,200(本体¥2,000+税)

幻のデビュー作!「時計仕掛けの恋人」P・スワンソン

「そしてミランダを殺す」「ケイトが恐れるすべて」
「アリスが語らないことは」など、
予測不能で読者はいったいどこへ連れて
いかれるやら・・とドキドキしながら読み、
驚愕のラストでがつん!とやられてしまう展開が
クセになる、ピーター・スワンソン作品。
そんな彼のデビュー作「時計仕掛けの恋人」を
読みました。

ボストンで、出版社に勤める中年男性
ジョージは、元恋人で、今は仲の良い
女友達とバーで飲んでいるときに、
魅惑的な女性に目を奪われる。
彼女は学生時代に死んだはずの恋人・
リアナに似ていた。

元恋人と店を出て帰路についたジョージ
だったが、どうしても気になり再度
バーに戻ると彼女がいた。
そして、彼女の方からジョージに近づいてきた。

彼女は、やはり死んだはずのリアナだった。
何十年も会っていないのに、リアナは
ジョージに頼みごとをしてきた。
「ある男に狙われている、助けて欲しい」と・・。

詳細を聞いたジョージは、その依頼を
「それぐらいのことなら」と引き受けて
しまった。

大学時代にもリアナから手痛い仕打ちを
受けて傷ついた経験から、関わるべきではない
と知りつつ、リアナの言葉に引き込まれゆく。

しかし、リアナの依頼を受けてしまったことで、
リアナとジョージの周囲で殺人事件が起きる。
そして、ジョージも命を狙われることに・・・。

リアナは再び行方をくらまし、ジョージは
警察から容疑者として疑われる。

ジョージの目線で語られる、リアナという女性。
読んでいると、リアナに翻弄される
ジョージという構成に見えるが、
果たしてどうだろう?本当に悪女なのか?
それとも・・・?

最後の最後まで事件の真相もリアナの正体も
わからない。

予測不能かつ怒涛の展開がこの作品ですでに
確立されている。

読者を引き込む緻密なストーリー展開に
はまってしまう!

P・スワンソンの極上ミステリーを
堪能して欲しい。

『時計仕掛けの恋人』
著者:ピーター・スワンソン
出版社:ハーパーBOOKS(文庫)
価格:¥990(¥900+税)