ホラー脱皮!?道尾秀介氏『花と流れ星』

道尾さんのデビュー作『背の眼』が3月にドラマ化されました。
『霊現象探究所』の真備とその助手、凛。そして、売れないホラー作家として自分自身をモデルとした、道尾が謎の霊現象を追って、山奥の村での事件を解決するお話。
デビュー作とは思えない面白さでした。その後は同じ登場人物で『骸の爪』を出版。
仏像が事件の重要な役割を果たすホラーミステリー。どちらもめちゃめちゃ怖くて面白かったです。
この「花と流れ星」は、おなじみの3人が登場する5編から成る短編集です。
しかし、ホラー色はほとんどなく、道尾さん独特のトリック、心理描写、衝撃が短編ながら十分すぎるほど堪能できる、珠玉のミステリー短編集です。
ホラーにこだわらず、道尾さんがとても気に入っているこの3人のキャラクターを魅力的にまた、思う存分自由に描いています。
さらに道尾さんのこだわりが随所に見られ、キャラに対する愛情さえ感じられる作品となっています。

第一編『流れ星の作り方』は夜道に窓越に出会った凛と少年。少年から聞かされる不思議な殺人事件。凛は違和感を感じながらも少年から問われた疑問を真剣に考える・・・・。これは道尾さんが大変得意な少年の心理描写と、ラストの衝撃が非常にうまく描かれた作品。はまさきの一番のお気に入りです。
第2編『モルグ街の奇術』は、エドガー・アラン・ポーの名作『モルグ街の殺人』がヒントになった、マジシャンのミステリー。
第3編『オディ&デコ』は、雪の中に捨ててしまった猫の幽霊に悩む少女の心を、3人が救うというお話。
第4編『箱の中の隼』は、新興宗教の美しい女性に拉致された、道尾。そこで道尾が見た驚愕の事件・・・。
第5編『花と氷』は、自分の過失で死なせてしまった孫に会いたいという老人の苦悩。そして、大切な人を失った悲しみを老人の苦悩にシンクロさせる凛の心理が見事に描かれた、ちょっと悲しい物語。以上の5編。ミステリーながら、心がほっと温まります。

『花と流れ星』
著者: 道尾秀介
出版社:幻冬舎
価格:¥533(税別)