重厚な社会派ミステリーの傑作!「沈黙の終わり」

堂場瞬一さんの「沈黙の終わり上下巻」を
読みました。

二人の新聞記者が、埼玉県と千葉県で
起きていた連続幼女誘拐事件の真相を
追う物語。

事件の取材をする記者の姿は、元新聞記者
だった著者にしか描けない、圧倒的臨場感がある。

東日新聞の柏支局長で定年間近の
松島は、柏支局に赴任して一週間が
経ったころ、七歳の女の子が遺体で
発見されたという一報を耳にする。

一方、東日新聞千葉支局の若手記者・
古山は県警記者クラブで柏の事件を知った。
その事件はすでに週刊誌にも掲載されていた。
週刊誌の記事を読んだ古山は4年前に
埼玉県で起こった女児行方不明の事件
を思い出した。
事件発生の場所を地図で確認すると、
千葉・埼玉両方の県をまたいでも
1キロも離れていない。
古山は、奇妙な不安に近いような
感情が沸き上がってきた。
もしかして、犯人は同じ人物なのか?

そして、古山は4年前の事件について
管轄である吉川署の副署長にその後の
捜査状況を聞いた。ところが副署長の
声が暗くなり、さらに自分の推測を
ぶつけてみると、推理小説みたいだと
一笑された。

一人で考えても埒が明かないと
古山は松島に相談する。
松島も聞いた当初は半信半疑だったが、
三十年前も近い場所で同じような
事件があったことを思い出す。

松島と古山は、様々な伝手を頼り
自分たちの「記者の勘」を信じ
真相に近づいてゆく。

次第に明らかになってゆく、恐ろしい
連続幼女行方不明事件・・・・。
それは30年前から始まっていたのだ。

千葉・埼玉の両県警は、なぜこのような
恐ろしい事件の犯人を逮捕できなかったのか?
警察の中で何が起こっていたのか?
二人の記者は権力の汚穢を暴くため、奔走する。

その取材の過程が緻密に描かれ、真犯人、
さらには、事件を隠蔽し続けた黒幕の
正体が暴かれる。

権力を己の保身に使った者たちへ、正義の鉄槌が下る。
命の危機を感じながらも、真実を求め
奔走する二人の記者の魂の叫びに心が震えた。

インターネットで何でも調べられる時代。
ニュースもネットでいくらでも読める。
斜陽産業と化した、新聞業界。
それでも、新聞の役割とは何かを
著者はこの作品で訴えている。

著者の熱い思いが詰まった
重厚な社会派ミステリー。

『沈黙の終わり 上下』
著者:堂場瞬一
出版社:角川春樹事務所
価格:上下巻各¥1,870(本体各¥1,700+税)