第3回警察小説大賞受賞作『転がる検事に苔むさず』

第3回警察小説大賞受賞作、直島翔さんの
「転がる検事に苔むさず」(小学館)。
元新聞社勤務で、社会部記者時代東京地検を
担当した著者だからこそ描けた、検察、
そして検事のリアル。

東京区検察庁浅草分室。略して区検。

そこで若手検事の指導官を務める
検事・久我周平は、飲み仲間の
刑事課長から手を貸して欲しいと
相談を持ち掛けられた。

ある夜、若い男が鉄道の高架から
転落し、猛スピードで走る車に
衝突し死亡した。
その男は自動車ディーラーの営業マンだった。

自殺か?他殺か?高架には他殺と
思われる痕跡が残っていたが、
殺人事件と断定できない。

仕方なく久我たちは自殺の線で遺書探しに専念する。
ところが、調査の過程でこのセールスマンの
周辺からグレーな部分が次々と明るみに出る。

ペーパーカンパニーを利用した輸入外車取引、
ロッカーから見つかった麻薬と現金・・・。

死んだ男は一体何者なのか。

久我は、交番巡査や新人の女性検事
とともに事件の真相に迫ってゆく。

検事が現場の刑事とともに捜査を行うと
いう展開はとても新鮮に映った。

また、事件捜査の現実や、正義が行われる
場所での内部抗争の実態がとてもリアルに
描かれていて面白い。

そして、主人公・久我検事の生き方が印象深い。

同僚から見下され、家族からは軽んじられる。
そして出世も見込めない。
検事なのに、仕事は地味で軽微な事務仕事。

そんな中でも、検事としての正義を全う
しようと奔走する姿に胸が熱くなる。

さえない中年検事が主人公の物語。
地味に感じるかもしれないけれど、
良い意味で「渋み」が際立つ、警察ミステリー。

『転がる検事に苔むさず』
著者:直島翔
出版社:小学館
価格:¥1,760(¥1,600+税)