味わい深いからうま長編「カレーの時間」。

日ごろ、ミステリーしか読まないが、
何かのきっかけに文芸小説を読むこともある。
その作品が寺地はるなさんの「カレーの時間」。
版元さんプッシュで読んでみたら、なんとも
言えない味わい深い物語だった・・・。

娘3人を男手一つで育てた、昭和一桁世代の祖父。
頑固で声が大きくて、気に入らないことがあると
すぐに怒鳴る。娘たちからも疎まれている。

80歳を過ぎて、一度心臓の病気で倒れたことも
ある祖父。一人暮らしをさせるのは心配
だからと孫の僕が同居することになった。
絶対に無理だと母や叔母たちには言ったのに・・・。

一緒に暮らしてみると、やはり文句ばっかり・・
男は男らしくしろ!と顔をみれば言ってくる。
令和の時代に、何を時代遅れなことを言ってるんだ!
内心、憤りを隠せない。

そんな毎日に辟易していたが、祖父の家の裏手に
ちょっと可愛いシングルマザーらしい女性と
息子が住んでいて、胸がときめく・・・。

それにしても、とにかく祖父といると事件に
巻き込まれる。あ~っと思ったときは、
祖父が大量に買い込んでいるレトルトカレー
をアレンジして食べる。なかなかいける~。
事件のあとはケロッとして祖父も喜んで食べた・・・。

終戦後、食品会社に勤め、レトルトカレーの
販売担当をした男。同僚が必死に開発した
レトルトカレーを営業するが一向に売れない・・・。
なんで売れないんだ?時々同僚にあたる。

知人の紹介で結婚したものの、妻の気持ちが
ずっとわからずにいた。でも娘たち3人は、
可愛くてしょうがない。
しかし、ある日妻は出て行ってしまった。
子どもを残して・・・。

祖父が孫に語る物語は切なくて切なくて・・・
なぜ妻が出て行ったのか?
残された子どもたちのために、祖父は何を
したのか?
その真相が明かされたときは、思わず涙がポロリ。

頑固一徹で一途な祖父と、優男風令和男子の
孫とのかけあいがまるで漫才みたいで面白い。
しかし、祖父の切なすぎる人生が涙を誘う。
男らしいだけじゃ足りないものがあるということを
気づけなかったのか!?

ピリッと辛みが効いた中にもほんのり甘さを
感じさせる飛び切りおいしいカレーのような物語。
じわじわと心に沁みた・・・。

作中、孫が作るレトルトカレーレシピ。
絶対に作りたくなる。

『カレーの時間』
著者:寺地はるな
出版社:実業之日本社
価格:1,760円 (本体1,600円+税)