「虫」をテーマにした短編ミステリー「蝉かえる」

第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を
W受賞した、連作ミステリー。
櫻田智也さんの「蝉かえる」(創元推理文庫)を読了。

全国各地を旅する昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉。

震災のあった場所で、昆虫食を研究している
人たちの出会う。
そんな中、魞沢は、16年前災害ボランティアで
出会った青年と再会する。
災害時、行方不明になった少女を神社で見かける。
少女は幽霊だったのか・・・?
【蝉かえる】

女子高生の事故と、アパートの入り口で
倒れていた女性。母娘の二人が同時に事故!?
二人の間には何があったのか?
たまたま公園でその少女を見かけた魞沢は、
じっと考える。
【コマチグモ】

高原のペンションに宿泊することになった
魞沢は、そこへ向かう途中で親切な
外国人男性を見かける。
ペンションで再会し、親交を温めた。
ところが翌日その外国人の遺体が発見される。
魞沢は、その遺体を見てあることに気づく。
【彼方の甲虫】

昆虫好きの少年・魞沢からある雑誌の編集者に
連絡が入った。
その編集者が懇意にしていた、昆虫好きの青年が
行方不明になったという。
魞沢はその男性と仲が良く、何かあった時は
連絡してくれと言われていたらしい。
二人は男性の行方を追う過程である疑惑に
突き当たる。
中学時代の魞沢がとても可愛いけれど、まだ
中学生なのに妙に達観しているところがすごく切ない。
【ホタル計画】

国境なき医師団で仕事をしていた魞沢の
友人が帰国した。
久しぶりに友人に会った魞沢は、疲れ果てた
姿に違和感を抱く。
彼は密かに「アフリカ睡眠病」を引き起こす、
ツェツェバエを日本に持ち込んでいた・・・。
【サブサハラの蠅】

魞沢泉のとぼけた感じの名探偵っぷりが
とてもやさしくて温かい印象。
悲しい結果になったとしても、
それを静かに受け止める魞沢の
心の深さに癒される。

昆虫の生態を引用し、物語の伏線として
さりげなく組み込まれていてとても面白い。
ただ、魞沢が解き明かした真相は、いつも
人間の悲しみや、愛おしさを秘めていて切ない・・・。

『蝉かえる』
著者:櫻田智也
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥814 (本体¥740円+税)