第64回メフィスト賞満場一致の受賞作「ゴリラ裁判の日」

選考委員満場一致で第64回メフィスト賞を受賞した、
須藤古都離さんの「ゴリラ裁判の日」(講談社)
読了。

2016年アメリカの動物園で実際に起こった
「ハランベ事件」をモチーフに描かれた、
人間と動物の境界とは何か?を深く
考えさせられる作品。

カメルーンにあるゴリラの研究所で、
アメリカ人の研究者によって教育された
メスのローランドゴリラ・ローズは
とても賢く、特別なゴリラだ。
手話を使って人間とコミュニケーション
がとれる。

あるIT企業のテッドが開発したグローブは、
手話が音声に切り替わるコンピューターを搭載。
それを両腕にはめたローズは、「声」までも
手に入れ、世界中の注目をあびることに。

そして、アメリカの動物園に招待されたローズ。
研究所のスタッフ以外で素敵な人間の女性と
友達になることもできた。

動物園では、ゴリラの仲間と暮らす。
そして、ゴリラ群れのリーダーに恋をした
ローズは彼の妻になる。

ある日、人間の子どもがゴリラの檻に落ちてしまい、
ローズの夫が子供を助けようとするが、
人間から見れば乱暴に振り回しているように見えた。

動物園側は人間の子どもを助けるためという理由で、
ローズの夫であるゴリラを射殺してしまう。
その処置をどうしても許せなかったローズは、
夫のため、自分のために、動物園側を
訴え、人間に対し闘いを挑んだ。

果たして裁判の行方は・・・?

ローズの放った「正義は人間に支配されている」
という言葉が、人間がいかに傲慢であるか?を
表現している。グサッと刺さる言葉だ。

人間とコミュニケーションが取れるゴリラの苦悩と葛藤。
ゴリラとしての自分と人間と認めてくれた
その社会に対する思い。ゴリラの複雑な心理描写が秀逸。

正義とは何か?人間と動物の境界とは何か?
奥深いテーマが心を揺さぶる

『ゴリラ裁判の日』
著者:須藤古都離
出版社:講談社
価格:¥1,925(¥1,750+税)