堂場瞬一さんの「コーチ」(東京創元社)を読了。
人気の警察小説シリーズを何作も手掛ける著者。
その中でも「コーチ」は異色の面白さを放つ
連作長編。
東北署刑事課強行班係係長の益山瞳は、
32歳で係を任されることになった。
しかし、瞳は捜査員たちが若い女性上司に
対し不満を持っているいるように感じていた。
そんな時、殺人未遂事件の通報で
現場に赴いた瞳たちは大きな失態を
犯してしまう!
男性優位の組織の中で自分の立場を含め
苦悩する瞳。そこへ現れたのは・・・?
東新宿署刑事・所貴之は、ある傷害事件の
容疑者の取り調べにてこずっていた。
容疑者は、ひょろりと背の高い優男。
しかし話をしてみると図太く、図々しく
人を馬鹿にしたような態度を崩さない。
本音が見えない男だった。
そんな所の応援と称して一人の刑事が
現れる。
目黒西署刑事・西条は、これまでの
捜査中、何度かマルタイの尾行に
失敗した経緯があり、先輩刑事たち
から刑事失格と言われていた。
そして、新たなマルタイの張り込みと
尾行を指示された西条だったが、
またしても見失ってしまう。
自信を失くし自暴自棄になりかけていた
西条の相棒としてある男がやってきた。
人事二課から派遣された刑事・向井光太郎。
期待されながらもなかなか結果を出せず、
それぞれに苦悩を抱えた刑事たちに的確な
助言を与え、刑事として生きてゆく自信と
誇りを回復させる。
しかし、なぜ人事二課なのか?
謎に包まれた向井のことを気にかけつつ、
成長した三人はやがて警視庁捜査一課
殺人犯捜査第四係で合流する。
そこで殺人事件が発生。
被害者は一人暮らしの女子大生だった。
捜査が進むうちにこの事件に向井の過去が
交錯していることがわかる。
向井の「教え子」たち三人は彼の過去を
探り始める。
前半は、仕事に悩む刑事たちに焦点を
あて、向井を通して成長する姿を描く。
時には厳しく、時には包み込むような
優しさで彼らに助言を与える向井の
姿勢や言葉は、仕事に悩む人たちの
心にじわじわとしみ込んでゆく。
後半は向井の教え子たちが、彼のために
事件の真相を追う、警察小説の醍醐味に
あふれている。
数々の堂場作品の中でもひと際輝く
傑作警察小説だと思う。
『コーチ』
著者:堂場瞬一
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥902(本体価格¥820+税)